家庭医療専門医の勉強記録

医学・非医学問わず、学んだことを投稿しています。内容の間違いなどありましたらご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

凍傷 凍瘡 しもやけ まとめ

雪山で遭難し、翌日救出され搬送されてきた方。

32度台の低体温と足趾の凍傷(診察時点でⅠ度)がありました。

凍傷の症例は経験がなく、参考文献1を見ながらなんとか対応。

 地元の皮膚科に紹介状を書いて、フォローをお願いしました。
以下はまとめです。
 
【リスクファクター】
疲労、脱水、低栄養、アルコール中毒、末梢血管疾患、糖尿病、精神疾患
 
【症状】
耳、鼻、顎、指、趾などに起きやすい
冷感、しびれ、動かしにくさ、感覚障害、白~灰色の皮膚、解凍により(非)血性水疱

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(参考文献2より)
 
 
【重症度分類】
①凍傷frostbite
Ⅰ度 紅斑性 発赤、腫脹、凍傷。レトロスペクティブに診断、組織損傷無し
Ⅱ度 水疱性 浮腫、水疱形成(真皮までの障害)、初期は真っ白に見える、皮下は弾力ある
Ⅲ度 壊死性 壊死、潰瘍(皮下組織までの障害)、皮下は弾力あり
Ⅳ度   筋肉、骨までの壊死。皮下は木のように固くなる
 
②しもやけ 凍瘡 chilblain 0度以上で発症する赤紫色の病変
塹壕足(ざんごうそく) trench foot 冷たい水に長時間つかって発症
 
 
【治療】エキスパートオピニオンが多い
・急速解凍rapid rewarming 40度くらいのお湯で数十分加熱 湯温モニター
・局所:患部の挙上安静、水疱痂皮潰瘍処置、切断(4週間以降)
・水疱は吸引する
・NSAIDs トロンボキサンに拮抗、鎮痛
・神経ブロック:硬膜外、交感神経節
・血管拡張:PGE1
・高圧酸素療法
破傷風予防
・禁煙
・重大なアンプタ(複数の指や大腿部など)リスク→tPAやヘパリン
 
 
【参考文献】
1)Philip B, 大滝純司, 他, マイナーエマージェンシー, 第1版, 2009, 医薬品出版株式会社.
2)林寛之, StepBeyondResident2, 羊土社, 2007.
3)Ken Z et al, Frostbite,UpToDate, Accessed on Jan 18, 2016.
 

急性腹症 腹痛 アプローチ まとめ

腹痛は解剖学的アプローチがよく用いられると思います。
症状は罹患臓器を反映します。上腹部痛を起こす臓器は○○と××、逆に胆道系臓器が障害されるとどこの部位に痛みが起きるのか、ということを理解するのが最も理にかなったアプローチなのかな と思い、意識してまとめてみました。
 
 
【罹患部位からのアプローチ】
@特に念頭に置くべき疾患
上腹部痛 上部消化管穿孔、急性膵炎、胆道疾患、急性虫垂炎
下腹部痛 急性虫垂炎、下部消化管穿孔、子宮外妊娠、卵巣嚢腫頚捻転、精巣捻転
全般痛  腸閉塞(絞扼、軸捻転、ヘルニア嵌頓含む)、急性腸管虚血
 
@部位別
  胃腸虫垂 肝胆膵脾臓 心肺 泌尿生殖器 筋骨格皮膚 血液
心窩部
食道、胃、十二指腸、虫垂炎初期、横行結腸
胆道、膵臓
心臓、肺、血管
     
 
右上腹部
胃、十二指腸
肝臓、胆道、膵臓
腎臓
肋骨骨折
 
 
 
左上腹部
食道、胃、十二指腸
心臓、肺
腎臓
肋骨骨折
 
 
臍周囲 胃、十二指腸、小腸、虫垂炎初期 胆道、膵臓 血管      
右下腹部 小腸、回盲部、上行結腸     腎臓、膀胱、生殖器    
左下腹部 小腸、下行結腸、S状結腸     腎臓、膀胱、生殖器    
腹部全体 小腸   血管     あり
不特定領域 腹壁瘢痕ヘルニア、腹膜垂炎       あり  
 
 
@臓器別
①胃腸虫垂
食道:胃食道逆流、食道炎
胃:胃炎、潰瘍
十二指腸:潰瘍
小腸:イレウス+SBO、腸炎、炎症性腸疾患、
   ヘルニア嵌頓(内外鼠径、閉鎖孔、大腿)、過敏性腸症候群、腹膜炎
回盲部:虫垂炎、腸結核
上行結腸:憩室炎、炎症性腸疾患
下行結腸:憩室炎、炎症性腸疾患
S状結腸:捻転
そのほか:腹壁瘢痕ヘルニア、腹膜垂炎
 
②肝胆膵脾臓
肝臓:肝炎、肝膿瘍、肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis )、肝腫瘍、肝静脈閉塞症(BuddChiari)
胆道;胆嚢胆管炎、総胆管結石、胆石症
膵臓:膵炎、膵腫瘍
脾臓:梗塞、破裂、膿瘍、遊走脾
 
③心肺
肺:肺炎、胸膜炎、肺塞栓、横隔膜下膿瘍
血管:腹部大動脈瘤破裂、大動脈解離、腸間膜虚血
 
④泌尿生殖器
腎臓:尿管結石、腎盂腎炎
膀胱:膀胱炎
男性:精巣捻転、精巣上体炎
女性、子宮外妊娠、卵巣腫瘍茎捻転、骨盤内炎症性疾患、子宮内膜症
 
⑤筋骨格皮膚
筋骨格:肋骨骨折、筋肉痛
皮膚;帯状疱疹
 
⑥血液
代謝;糖尿病性ケトアシドーシス、急性間欠性ポルフィリン症、鉛中毒、急性副腎不全
リウマチ:家族性地中海熱
 
@疼痛部位と罹患臓器の位置の乖離
・自発痛の位置と解離
 急性虫垂炎→上腹部痛、胆嚢炎膵炎→背部痛、尿管結石→尿管方向、精巣捻転→下腹部痛 など
 
・罹患部位が想像より広がっている
 左下腹部痛→虫垂炎:長くて先端が左へ、下腹部痛→膵炎:浸出液が骨盤腔まで達する など
 圧痛の最強部中心部を探す
 
・臓器が本来の位置に無い
 内臓逆位、腸回転異常、左側胆嚢、食道裂孔ヘルニア、オペ後
 高齢で右肺手術既往/右横隔神経麻痺など→胆嚢の位置が上へ
 高度な亀背→肋骨弓が骨盤腔に入り込むほど→胆嚢炎が右下腹部、虫垂炎が右上腹部となったりすることも
 
【緊急性からのアプローチ】
①ショックの場合
・出血性(外傷除く)
腹部血管疾患:腹部大動脈瘤破裂、腸骨動脈瘤破裂、腹腔動脈瘤破裂
肝脾疾患:HCC破裂、脾破裂
婦人科疾患:子宮外妊娠、卵巣出血
→エコーでチェック、必要なら穿刺で出血であること確認
 
敗血症
原疾患→汎発性腹膜炎→敗血症:広範な腸壊死や下部消化管穿孔など
原疾患+-限局性腹膜炎→敗血症:急性胆嚢炎胆管炎、虫垂炎など
 
・脱水による
急性膵炎、腸閉塞、重症膵炎、上部消化管穿孔など
 
上記が原因
ショック、呼吸不全、軽度黄疸、低体温、mottling(斑点形成)、意識障害、重度の代謝性アシドーシス
 
③汎発性腹膜炎
・板状硬board like rigidity 
強い自発痛、カチンコチンで腹壁は揺れない、特に上部消化管穿孔
・反跳痛が明らか
特に下部消化管穿孔 腹部全体膨満、ゴム風船を膨らませたような弾力のある硬さ
・明らかに局在
穿孔性の虫垂炎や胆嚢炎など
 
*手術適応にならない例外:急性膵炎、原発性腹膜炎、重症の急性腸炎
 
 
【痛みの性状からのアプローチ】
①七転八倒
通常結石性疾患(尿管結石、胆石など)、ほか臓器虚血
→腹膜への炎症波及がないため動くことによる痛みの増強がない
 
②苦悶様
腹膜刺激があるためじっとしている。上部消化管穿孔、急性膵炎など
 
*痛みがマスクされる状態
麻痺(脊損、脳血管障害)、高齢者、統合失調症、肥満、糖尿病、妊娠
 
*疾患の進行で痛みが和らぐ場合
穿孔:穿孔直前~時が最も痛い?、その後は少し和らぐ
梗塞(SMA閉塞など):虚血は痛いが、壊死に至ると臓器自体の痛みはなくなる
 
 
【随伴症状からのアプローチ】
①悪心嘔吐食欲低下
1.程度や性状
悪心のみ:腸閉塞はやや否定的
水様吐物:腸閉塞らしい
 通常黄茶褐色(便汁様)、十二指腸に近い閉塞だと緑色が強くなる
食物残渣:嘔気や疼痛に伴うもの、胃出口での閉塞
 例外:絞扼性腸閉塞など→痛み強い→初期は食物残渣のこともある
 
2.罹患部位との関連
本管(胃小腸大腸)→悪心強い、口側でさらに強い
虫垂       →悪心あるが長続きしない
側管(胆管胆嚢膵臓)→悪心弱め、強い痛みに伴って吐き気が出る
後天的な側管(憩室など)→ほぼなし
 
②下痢
頻回大量の水様下痢→ほぼ腸炎:腸管粘膜側の病変で、かつ消化管蠕動が低下していない
頻回だが少量の下痢→骨盤内で直腸に接する炎症(虫垂炎、膿瘍、PIDなど):テネスムス(しぶり腹)
そうでない場合→鑑別多数
*血便黒色便を下痢と表現することもあるため注意:特に高齢者
 
③体温
明らかな発熱:感染性疾患から鑑別
平熱:非感染性疾患から鑑別
低体温:敗血症を鑑別
虫垂炎胆嚢炎などCommon diseaseは発熱の有無は重視しない
*悪寒戦慄の有無確認
 
④黄疸
胆管炎を考える。敗血症では軽度黄疸を伴うことあり
 
⑤他部位の疼痛
腰背部:後腹膜病変 大動脈など
右肩甲骨:胆石、胆嚢炎
左肩:脾臓 膵臓 左横隔膜
右肩:甘草 右横隔膜
上半身;右下葉肺炎 膿胸
肩顎歯;心筋梗塞
下肢:血管疾患(解離など)、閉鎖孔ヘルニア
 
 
 
【女性へのアプローチ】
①想起
消化器症状が乏しい、発熱を伴わない腹痛持続痛など
例外:卵巣捻転→嘔吐、PID→発熱
 
②年齢
初潮~20代前半:卵巣頸捻転、子宮外妊娠、PID、卵巣出血
20代後半~;上記+子宮内膜症
子宮筋腫→中年
子宮瘤嚢腫→高齢者
 
③妊娠反応検査
「妊娠可能な年齢の女性の腹痛でレントゲンCTを行うときには、検査することになっています。
あなた自身が妊娠しているかどうかとは関係ありません。
全例で尿検査してほうが正確であることがわかっているからです。」
それでも拒否された場合には、その旨をカルテに記載。
 
④妊娠可能性者への対応
・問題になるケース
放射線被ばくのある検査
薬剤の使用
手術の決定
 
・原則
対応は産科医と協議
妊娠胎児には常に一定の自然リスクがある。
母体の健康=胎児の健康
 
 
【参考文献】
1)窪田忠夫, ブラッシュアップ急性腹症, 第1版, 2014, 中外医学社.
2)松村理司, 診察エッセンシャルズ, 新訂版, 2009, 日経メディカル開発.
3)Scott DC et al, 考える技術 臨床的思考を分析する, 第2版, 2011, 日経BP社.

めまい 眩暈 Dizziness まとめ

めまいはよく来るけどしっかりまとめてなかったと思い、まとめてみます。
救急外来での緊急疾患除外は意識していたけど、それ以降の部分をあまり意識してなかったのが反省点です
 
【アプローチ】
①分類を試みる
1.明らかな回転性めまい→中枢、内耳の鑑別
2.前失神→失神としての鑑別へ→別項
3.はっきりしない場合や平衡障害、浮動性めまい→1,2含めて鑑別
 
②中枢性の除外(失神の鑑別は別項へ)
 
③末梢性の鑑別
 
④そのほかの鑑別
 
 
【分類を試みる】
前失神presyncope:心血管性、起立性、VVR →失神の項目へ
回転性めまいvertigo:内耳、小脳脳幹
平衡障害disequilibrium:視覚、脊髄路、神経筋、前庭、小脳脳幹
浮動感light headedness:パニック、過換気、高血圧、神経筋疾患、疲労、寝不足、低血糖、パーキンソン、低カリウム血症、頸椎症、視力低下、当直明け、失恋など何でもアリ
 
*1つだけに分類できないこともあり、発症状況の確認が大事
*頭痛、しびれ、精神的な錯乱、目の前がかすむ、歩行障害なども「めまい」と表現されることあり
 
 
【中枢性の除外(失神の鑑別は別項へ)
①中枢性の鑑別
小脳や脳幹の梗塞、出血、椎骨脳底動脈還流不全、腫瘍、脳底動脈型片頭痛など
 
②中枢性を疑う状況
突然発症、動脈硬化のリスク、激しい頭痛・頸部痛、神経局在所見、安静にしても持続する眼振を伴うめまい、どちらか一方に傾く
  末梢 中枢
眼振 水平(水平半規管)
水平回旋(前と後半規管:繋がっている)
一方向性
注視抑制あり
疲労あり
懸垂頭位から戻すと反対方向に眼振が出る
垂直性は中枢!
なんでもあり
注視抑制なし(眼振が見やすい)
持続性
歩行 軽度障害
romberg急速相対側へ
高度障害
romberg全方向へ転倒
蝸牛障害あればほぼ内耳 まれ
神経 神経局在所見なし
嘔吐続けば頭痛も
神経局在所見あり
頭痛
まとめ 回転性めまい
+70歳未満
+神経局在所見なし
回転性めまいっぽくない
+70歳以上
 or神経局在所見あり
・頭痛:最初からある場合には中枢っぽい
*中枢性めまい(小脳脳幹)の20-25%は末梢性と同じ!症状はオーバーラップする
 
③神経局在所見
1.脳幹 =花子幸福: 8、7、5、構音障害、複視
・Ⅷ聴神経:難聴、耳鳴り、耳閉塞感
→突然発症の場合は突発性難聴
 再発例などは外リンパ瘻やメニエール、
 緩徐発症なら聴神経腫瘍
 
・Ⅶ顔面神経:おでこは末梢神経麻痺 中枢だとおでこはやられない
・Ⅴ三叉神経:Onion peel分布を意識。口回りの所見に注意 *過換気との鑑別は時に困難 

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構音障害:下位脳神経* 
複視:Ⅲ,Ⅳ,Ⅵ
 
*構音障害の見つけ方
Ⅶ顔面神経:パ、バ、マ 口唇の動き
Ⅹ迷走神経:カ 軟口蓋の動き
Ⅻ舌下神経:サ、タ、ダ、ナ、ラ 舌の動き
パダカ、メダカ、パトカー、モナカ、モナコ、ナメコ、ナマコなど
 
2.小脳 2Ataxia:
・運動失調 指鼻、膝踵、回内回外 
・躯幹失調:歩いてふらつかない →小脳虫部
 
 
【回転性めまいVertigo】
40歳以上の35%は前庭障害あり
①難聴
伴う場合:メニエール病、内耳炎が多い。
ない場合:BPPV、前庭神経炎が多い
 
②繰り返す場合
BPPVやメニエール病が多い
 
片頭痛性めまい
除外診断、片頭痛患者の10%にある
めまいエピソード中2回、以下の1つ以上がみられること;片頭痛、光過敏、音過敏、前兆
 
④BPPVの検査、治療
Epley法(50-95%で効果あり、NNT2 NNH2)
Dix-hallpike試験(Sen79-82, Spe71-75, LR+2.8-3.2, LR-0.3)

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Bの状態で30秒キープ=Dix-hallpikeはここで終了 眼振が出れば陽性 

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Cの状態でも30秒キープ  
Dでもさらに30秒キープ

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E 起き上がって終了
 
 
【そのほかの鑑別】
①起立性低血圧によりめまいを起こす薬剤
α、β遮断薬、ACEI、クロニジン、ジピリダモール、利尿薬、ヒドララジン、メチルドパ、硝酸、レセルピン
向精神薬オピオイドパーキンソン病薬、筋弛緩薬、三環系
PDE阻害薬、抗コリン薬
 
②頭部外傷、むちうち
頭部外傷後のDizziness、むちうち後のVertigoは78-80%にみられるといわれている
 
③平衡障害disequilibrium
ほかの随伴する神経学的所見がなければ、めまい単独の脳梗塞TIAは稀(0.7%/1600人)
視力障害の有無は大事
ほかパーキンソン病、末梢性神経障害、筋骨格系の障害
ベンゾジアゼピンや三環系はリスクになる
 
④浮動性めまいlight headedness
特に慢性的に訴える場合は、精神疾患が多い
うつや不安障害、特にパニック障害アルコール中毒のチェックをする
過換気症候群:呼吸性アルカローシスと浮動性めまいをきたす、他胸痛、しびれ、腹満、心窩部痛など
 
 
【参考文献】
1)林寛之,Dr.林の笑劇的救急問答5(上)/ケアネットDVD(DVD), 2009, ケアネット.
2)Post.RE, Dickerson LM, Dizziness: A Diagnostic Approach, Am Fam Physician, 82:361-368, 2010.
3)上田剛士, ジェネラリストのための内科診断リファレンス, 第1版, 2014, 医学書院.
4)林寛之, StepBeyondResident6, 羊土社, 2010.

咽頭痛 嚥下時痛

健康な30代の男性、主訴は発熱。
昨日から体熱感があり、市販の解熱薬を飲むと少し楽になったという。(体温測定せず)
本日来院時は体温36.6度で解熱薬の使用はなし。
他の症状を聞くと、咽頭痛・嚥下時痛があるが他の上気道症状はないと。
また、子供が数週間前に溶連菌性咽頭炎にかかったという。
診察上、両側扁桃に白苔付着があるが、前頸部リンパ節の圧痛や腫脹はなし。
Centor score2点と考え、迅速検査するも陰性。
ウイルス性の咽頭炎として対症療法を行うこととした。
 
 
迅速検査陰性ってだけで否定していいのかな?と思いまとめてみることとしました。
Centor score2点で溶連菌性咽頭炎の可能性が11-17%、迅速検査のLR-が0.11-0.3というデータを用いると
本症例の溶連菌性咽頭炎の事後確率は直感的には限りなく0%に近づきますね。
ちゃんと計算すると、0.01%~0.06%となりました。
罹患した子供との接触があるので、もう少し可能性を上げてもいいかもしれませんが、溶連菌性咽頭炎はどちらにしても否定できたと考えてよさそうだと思いました。
 
 
【概論】
嚥下時痛→咽頭痛。「咽喉頭」の病変。
嚥下時痛でない→ほかの疾患(例:AMI、解離、くも膜下出血)の除外
*開口障害=咀嚼筋(咬筋、蝶形骨筋)の圧力や炎症、または三叉神経麻痺を示唆
 
咽頭炎の90%はウイルス性
 
 
【溶連菌性扁桃炎】
・modified Centor criteria
38℃以上の発熱
咳がない
扁桃の白苔+発赤
圧痛を伴う前頚部のリンパ節腫脹
3-14歳はプラス1点、
45歳以上はマイナス1点
 
ポイント LR+ 溶連菌の確率 Disposition
-1,0 0.05 1-2.5% 検査不要
1 0.52 5-10% 検査不要
2 0.95 11-17% 迅速検査
3 2.5 28-35% 迅速検査
4 4.9 51-53% 抗菌薬考慮
*3-4点全てで抗菌薬治療すると、overtreatmentが50% undertreatmentが10-20%
 
・迅速検査
感度70-90% 特異度90-100% LR+ 7-∞、LR- 0.11-0.3
(文献5より計算)
 
・他のポイント
年齢がやはり大事=小児の病気。成人であれば、sick contactがあるかどうかが大事
小児の場合、猩紅熱様の皮疹はLR2.0-7.6と有用
*猩紅熱:溶連菌の毒素による発熱・皮疹。イチゴ舌や咽頭炎の所見が見られる

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点状紅斑様、日焼け様の皮疹
(文献3)
前頸部リンパ節:腫脹なくても触れて痛みあれば+ととる
白苔;朝にはなくて夕にあるというケースも
鼻汁がない→1点(の気分)
左右の喉のどちらかが痛い→1点(の気分)
嚥下時痛:食事で改善しない
*ウイルスっぽい咽頭痛:咳嗽時のみ増強、起床時に強い、食事中軽快
 
 
 
・治療
①意義
除菌失敗による再発が15%
症状の短縮:16時間程度。病日3日目の疼痛が減少(NNT6)
90%の症例では治療なしでも1週間以内に症状消失
診断に迷う場合は数日以内に再度診察でOK
 
・合併症の予防
リウマチ熱:NNT4000 現在では稀なため予防効果少ない
中耳炎:NNT29
副鼻腔炎:NNT50
扁桃周囲膿瘍:NNT27
糸球体腎炎や髄膜炎:予防効果なし?
 
②内服
バイシリンG 80万単位1日4回 10日間
サワシリン500mg 1日3回 10日間
ペニシリンアレルギーなら
クラリスロマイシン200mg1日2回 10日間
ジスロマック500mg1日1回 3日間
③点滴
ペニシリンG 100万単位1日4-6回 10日間
 
 
 
【5 killer sore throat】
 
*考慮すべき状況
よだれ、発生困難、こもり声、頸部腫脹、特に嚥下困難(uptodate)
嚥下痛や咳嗽痛がない、咽頭所見が軽い
 
①急性喉頭蓋炎:
咽頭痛の割に咽頭所見が軽いときなど疑う。
後期にはsniffing position(鼻をかぐ姿勢)や唾が飲めないなど
 
②扁桃周囲膿瘍:開口障害、前口蓋弓の前方への突出など
 
咽頭後方=咽後膿瘍
原疾患となり得る外傷、異物や口腔咽喉頭、歯牙の炎症性疾患の治療中や初診時
咽頭痛、発熱といった一般的な炎症症状に加えて、呼吸困難、嚥下困難、開口障害が出現し、
さらに頸部の発赤、腫脹、疼痛、ときに握雪音が出現する場合には
単なる上気道炎ではなく頸部下方の各間隙に感染波及した重症感染症を疑う
 
咽頭前方=喉頭蓋の蜂窩織炎ludwig angina: 
発熱悪寒、倦怠感、項部硬直、嚥下困難、sniffing position
 
咽頭側方=感染性血栓性静脈炎lemierre症候群:
若年者、口腔内感染症の先行、嚥下困難、開口困難
 
 
【その他の疾患】
・亜急性甲状腺炎:
多くは自然軽快、ステロイドの適応も考慮
咽頭痛や嚥下時痛の割に、鼻汁や咳がなく咽頭所見が軽い。
痛みの部位の移動、耳の下への放散痛
 
EBVが最多、青年期~若年成人
発熱咽頭痛、後頸部など頸部リンパ節腫脹、肝脾腫、
毛布のような扁桃白苔、
左前腋下線と肋骨下縁の交点が打診でdull(castells point)=脾腫→嘔気、腹満感
3日以上経っても軽快しない
ペニシリンで全身性紅斑
検査としてはCMV-IgMと以下
  ViralCapsidAntigen(VCA)-IgM VCA-IgG EBNA
既感染 - + +
初感染 + +か- -
初感染の初期 - + -
 
咽頭炎の所見としての咽頭発赤は、特異度は低そう。感度はまあまあ?
喉頭違和感:DDとして突発性@大動脈解離、急性@AMI,狭心症、慢性@悪性腫瘍、GERD、後鼻漏
→器質的疾患除外後、半夏厚朴湯が効くかも
 
 
 
【参考文献】
1)岸田直樹, 誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた, 第1版, 2012, 医学書院.
2)岩田健太郎, 宮入烈, 抗菌薬の考え方、使い方 ver.3, 第3版, 2012, 中外医学社.
4)上田剛士, ジェネラリストのための内科診断リファレンス, 第1版, 2014, 医学書院.
5)Anthony WC et al, Evaluation of acute pharyngitis in adults, UpToDate, accessed 2015/11/11.

熱傷 まとめ

9か月の男児。掘りごたつに落っこちてしまったとのことで来院。
顔面(耳介、鼻翼、頬部、鼻唇溝)に表皮剥離と一部水疱形成あり
Ⅱ度熱傷の診断
少しゴミがついていたので、生食で洗浄し、貼れる部分はワセリンガーゼ、貼れない部分はワセリン頻回塗布を指示した。
ガーゼは剥がれてしまうので、包帯で被覆した。
 
熱傷の診療経験がほぼないので、まとめてみました。
反省点としては、
・洗浄前にキシロカインゼリーなどで局所麻酔するべきだった(どっちにしても泣いただろうけど)
・ワセリンガーゼではなく、モイスキンパッドなどの方がくっつきやすかったかも
というところです。
 
 

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(参考文献1より)
 
【メニュー】
麻酔
創傷の洗浄
創傷の被覆=ドレッシング
感染予防
疼痛コントロール
 
【麻酔】
洗浄が必要なときは、局所または全身麻酔
キシロカインゼリーなど?
 
【洗浄】
化学熱傷や異物汚染があれば洗浄を行う
通常の熱傷であれば洗浄不要
★直径2㎝以上の水疱膜は徹底的に除去する 感染予防

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(参考文献1より)
無鉤鑷子や細いペアンで肉芽と膜の間を滑らせるように入れる。
全て除去しなくてもよく、何か所かドレナージ用の穴をあけるイメージ。
 
【被覆】
・広範囲熱傷
食品包装用ラップ(サランラップでもクレラップでもよい。もちろん,ビニールの風呂敷だっていい)で創面を覆う
ラップの上はガーゼか紙おむつで覆い,浸出液を吸収する。
ラップはアセモを作りやすいので,傷の周りの皮膚をよく洗うようにしたほうが安全。
*ラップは滅菌する必要はない(ラップの製造過程から考えて,市販のラップに細菌が付着している可能性はほとんどゼロ)。
*OpWT(穴あきポリ袋+紙おむつ)で創面を覆うのも効果的。ラップ単独より汗疹ができにくいのがメリット。
OpWTについては下記の鳥谷部先生のサイトを参照。
 
・顔面の熱傷ではデュオアクティブ(キズパワーパッド)が有用。モイスキンパッドなどでもよい
・四肢や体幹の熱傷ではプラスモイストで創面を覆うだけでよい。
プラスモイストは一部の調剤薬局やインターネットで購入できる。面積が広い場合には最も安価なプラスモイストTOPがいい。
・ラップで治療をしていて汗疹ができたら,汗疹の部分をよく洗ってプラスモイスト(プラスモイストTOP)で覆うと数日でよくなるはず。
 
・ワセリン塗布の併用で、さらに疼痛緩和に効果的。
 
*被覆しにくい部位(顔面など)
頻回のワセリン塗布で対応
 
 
【感染予防】
基本的に予防的投与は不要
乳幼児に限り、予防的投与を行うという選択肢もある?
 
【疼痛対策】
受傷直後には冷却が有効、それ以降はあまり有用でない
創面の乾燥を防ぐのが大事
 
 
【参考文献】
1)夏井睦, 新しい創傷治療:実際の治療例, 新しい創傷治療,http://www.wound-treatment.jp/title_tiryou.htm, Accessed 2015/11/02
2)夏井睦, ドクター夏井の外傷治療「裏」マニュアル~すぐに役立つHints&Tips~, 2007 , 三輪書店.

精巣捻転 精索捻転 睾丸痛

6歳男児の睾丸痛。走っていたら違和感を感じ、その後から増悪したという。見た目は元気そう。
「睾丸痛」という主訴の人を見るのは初めてでした。
精巣捻転について少し予習してから診察したのですが、腫脹発赤など左右差があるように見えたため上級医に診察依頼。上級医は「あんまり心配なさそう」とのことだったけど、たまたま非常勤の泌尿器科のdrがいたため診てもらいました。
結局、原因ははっきりしないけど重篤な疾患は否定的との見立てでした。
 
以下、精巣捻転のまとめ
 
【疫学】
新生児、思春期後に多い
 
 
【原因】
睾丸の精巣鞘膜への付着が不十分
外傷などに誘発されたり、自然に誘発されたりして起きる

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(文献3)
 
 
【診断のポイント】
・問診
既往:流行性耳下腺炎結核尿路結石、停留精巣など
時間:深夜早朝に多い
繰り返す病歴:捻転と自然解除を繰り返す可能性がある
 
・診察
腫瘤の硬結
精巣横位→精巣捻転を疑う!

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blue dot sign↑ 虚血と壊死を示唆 (文献2)
 
精巣挙筋反射(大腿上内側を軽くこする→精巣が勢いよく牽引):捻転では消失していることが多い
 
*陰嚢内容拳上により疼痛緩和 →精巣上体炎を疑う所見(Prehn徴候)
*CVATチェック:尿路結石による陰嚢への放散痛のことあり
 
・急性の睾丸痛の鑑別
  発症 疼痛部位 精巣挙筋反射 ほか
精巣捻転 急性 睾丸 陰性 睾丸拳上、腫脹、横位
精巣上体炎 急性か慢性 精巣上体 陽性 精巣上体の硬結圧痛、尿検査陽性
フルニエ壊疽 急性 びまん性 陽性 緊満性浮腫、水疱、摩擦音、発熱悪寒、低血圧
虫垂捻転 亜急性 睾丸上極 陽性 前上方の睾丸に圧痛、Blue dot sign
 
 
・検査
精巣の血流チェック あれば感度高い(82-100)
 
 
【治療】
手術で捻転解除
手術がすぐにできない場合、用手的に捻転解除を行うことあり
 内側にねじれてることが多いので、外側にねじれを解除 180-720°捻転している
 →疼痛、横位、拳上、エコーでの血流などの改善をチェック
(上手くいったとしても手術は必要:精巣固定術)
 
 
 
【予後】
捻転から12時間で不可逆的なダメージを受けると言われる→不妊の原因となるかもしれない
 
 
【参考】
1)郡健二郎, 他, 泌尿器科レジデントマニュアル, 2011, 医学書院.
2)Brenner JS et al, Causes of scrotal pain in children and adolescents, UpToDate, Accessed on Oct 29, 2015. 
3)Eyre RC et al, Evaluation of the acute scrotum in adults, UpToDate, Accessed on Oct 29, 2015.

参考文献の書き方

サイト開設にあたり、参考文献の書き方などいろいろ調べたのをまとめます。
基本さえ押さえれば、書き方・順番などはそこまでこだわらないのかなーという印象です。
論文投稿する場合は、投稿する雑誌のルールに従うんだとは思いますが
 
 
【必要性】
論文の新規性、独創性、信頼性の明確化
先行する著者に対する敬意
出典の明示
読者に対する情報提供
 
 
【必要な要素】
①著者に関する要素 
著者名、編者名 など
 
②標題に関する要素
書名、誌名、論文標題など
 
③出版、物理的特徴に関する要素
版表示、出版者、出版年、巻・号・ページ・DOI など
 
④注記的な要素
媒体表示、入手方法、入手日付 など
 
 
【例】
・ウェブ
①著者名.②ウェブページの題名.ウェブサイトの名称.④(アドレス)(更新日付)(言語の表示)(媒体表示)(入手日付).
 
・UpToDateでは、UpToDateの引用のしかたを書いている↓
Marion, DW. Diaphragmatic pacing. In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA. (Accessed on November 25, 2013.)
(文献2より)
 
◆参考文献
1)法務省出入国管理統計.
2)Herk KV, et al. Knowledge, attitudes and practices in travel-related infectious diseases: the European airport survey. J Travel Med. 2004 ; 11 (1); 3-8.
3)Namikawa K, et al. Knowledge, attitudes, and practices of Japanese travelers on infectious disease risks and immunization uptake. J Travel Med. 2010 ; 17 (3); 171-5.
4)Carroll B, et al. Primary health care needs for travel medicine training in Britain. J Travel Med. 1998 ; 5 (1); 3-6.
5)濱田篤郎.日本におけるトラベルクリニックの現状と課題.海外勤務と健康.2007 ; 26 ; 26-9.
6)Steffen R, et al. Health problems after travel to developing countries. J Infect Dis. 1987 ; 156 (1); 84-91.
7)Steffen R, et al. Health risks among travelers-need for regular updates. J Travel Med. 2008 ; 15 (3); 145-6.
8)廣幡智子,他.海外渡航にともなう健康問題に関する意識調査.日本渡航医学会誌.2013 ; 6 (1); 20-4.
9)International Society of Travel Medicine HP.

(文献3より)
 
 
【参考文献】
1)独立行政法人 科学技術振興機構, 参考文献の役割と書き方 科学技術情報流通技術基準(SIST)の活用, SIST 科学技術情報流通技術基準, https://jipsti.jst.go.jp/sist/pdf/SIST_booklet2011.pdf#search='%E5%8F%82%E8%80%83%E6%96%87%E7%8C%AE+%E6%9B%B8%E3%81%8D%E6%96%B9+%E5%8C%BB%E5%AD%A6',accessed Oct 29, 2015.
 
2)Wolters Kluwer Health, Citing an UpToDate topic, UpToDate, Accessed on Oct 29, 2015.
 
3)濱田篤郎, 他,国際化が進む今,渡航者の安全・安心を支える トラベルメディスン, 医学書院,http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03064_01, accessed Oct 29, 2015.