家庭医療専門医の勉強記録

医学・非医学問わず、学んだことを投稿しています。内容の間違いなどありましたらご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

Smartest Family Physician Today's Quiz 5/17/17

上記原文+一部日本語訳を載せてみる

https://www.mdlinx.com/family-medicine/smartestdoc/quizResults.cfm?qeid=F06530E5E30E4D5A8A90840EB59E7220

 

Q1: What would you estimate is the excess weight loss (EWL)% at 24 months following laparoscopic sleeve gastrectomy in adolescents affected by morbid obesity?

病的肥満で腹腔鏡下胃切除術後を受けた青少年の24か月後の超過体重減少率は?

*超過体重減少率(excess weight loss).
術前の体重から理想体重(BMI 25kg/m2)を差し引いた超過体重の減少率を計算したもの。=術前体重-術後体重)/(術前体重-BMI 25の体重)×100

20%
40%
60%
80%

 

Answer Explanation:

60%. Actually, 59.4%. Childhood obesity is an emerging health problem.

小児肥満は最近問題となってきている健康問題。

Iossa A, et al. Eat Weight Disord. 2017 Jan 9. [Epub ahead of print]

 

 

Q2: Laparoscopic sleeve gastrectomy was significantly more effective in non-syndromic vs syndromic obese adolescents. True or False?

腹腔鏡下胃切除術は症候性肥満若年者よりも無症候性の方が効果的だ。

True
False 

 

Answer Explanation:

False. Outcomes were comparable at 24 months.

24か月時点でのアウトカムは同等。

Iossa A, et al. Eat Weight Disord. 2017 Jan 9. [Epub ahead of print]

 

 

Q3: Isocaloric substitution of carbohydrate for fat is associated with greater:

脂肪分を同カロリーの炭水化物に置き換えることは、○○をより大きくする。

Fat loss 脂肪分の減少
Energy expenditure エネルギー消費
Neither answer is correct – no significant difference どちらも違うー大差なし
Both answers are correct 両方正解

 

Answer Explanation:

Both answers are correct. Weight changes are accompanied by imbalances between calorie intake and expenditure.

両方正解。体重変化はカロリー摂取と消費のアンバランスに付随して起きる。

Hall KD, et al. Gastroenterology. 2017;152(7):1718-1727.e3.

 

 

Q4: Your 24-year-old moderately obese patient asks you about vagal nerve blockade (vBloc) therapy. Approximately what percentage EWL would she be likely to achieve a year from now?

中等度肥満の24歳女性から迷走神経遮断(vBloc)療法について聞かれた。1年以内に約何%体重減少できるか?

15% 
30%
50%

 

Answer Explanation:

30%. Actually, 33%. At 12 months, patients undergoing vBloc achieved 33% EWL (11% total weight loss [%TWL]), compared with 19% EWL (6% TWL) in those undergoing sham therapy.

12か月時点でvBlocを受けた患者はEWLが33%、TWL(全体重減少率)が11%
偽療法だとEWL19%、TWL6%。

Morton JM, et al. Obes Surg. 2016;26(5):983-989.

 

 

Q5: Which approach preserves fat free mass (FFM) during weight loss in overweight and obese older adults?

肥満高齢者の体重減少で、除脂肪体重(FFM)を維持するのに最も良いアプローチは?
*FFM=全体重ー脂肪分の体重

Resistance exercise alone レジスタンス運動単独
High protein diet alone 高蛋白食単独
Combined resistance exercise and high protein diet Your Answer それらの組み合わせ
None of the answers is correct
All of the answers are correct

レジスタンス運動:筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う運動。 スクワット、腕立て伏せ、ダンベル体操など

 

Answer Explanation:

Combined resistance exercise and high protein diet. Intentional weight loss in obese older adults is a risk factor for accelerated muscle mass loss.

両方の組み合わせが有効。高齢肥満患者が故意に体重減少することは筋肉量減少を促進させるリスク。

Verreijen AM, et al. Nutr J. 2017;16(1):10.

 

無脾症患者の発熱 Overwhelming postsplenectomy infection OPSI

Rubin LG, Schaffner WS, Care of the asplenic patient, N EnglJ Med, 2014;371:349-356.
 
無脾症患者の敗血症は死亡率50%を超える
敗血症は無脾症患者の3.2%にみられる(1980-1990年代の報告。平均6.9年追跡調査)
 
無脾症の原疾患:
・脾摘術後:外傷、疾患(遺伝性球状赤血球症、ITP、脾腫、鎌状赤血球症)
・機能性:幹細胞移植後の慢性GVHD(移植片対宿主拒絶反応)、重度セリアック病、未治療HIV
・先天性:単独は稀。先天性心疾患(Ivemark症候群)などと関連
 
無脾症敗血症のリスク因子:
・脾摘原因:低→外傷、中→遺伝性球状赤血球症またはITP、高→鎌状赤血球症、βサラセミア、門脈圧亢進症
・脾摘年齢:高→乳幼児の脾摘または先天性無脾症。
・脾摘後の経過時間:特に若年では脾摘後1年、しかしその後10年間(恐らくは生涯)リスクは高いまま
 
無脾症で感染リスクが上がる菌:
肺炎球菌(最多)、Hib
髄膜炎菌、大腸菌黄色ブドウ球菌→恐らくリスク上がる
Capnocytophaga caniorsusやC.cynodegmi(動物咬傷)
babesia(ダニ咬傷)
Bordetella holmesii(パラ百日咳菌:敗血症、心内膜炎など)
 
敗血症の予防:
・教育→発熱や重度の症状があればすぐに医療機関受診を。
・ワクチン→以下
・予防的抗生剤
適応:5歳未満の無脾症小児、動物咬傷
考慮:5歳以上でも脾摘後1-2年、脾摘後敗血症の既往がある人
 
ワクチン:日本では無脾症の保険適応はPPSV23のみでほかは自費となるかも?
・肺炎球菌
PCV13(プレベナー13®):ワクチン歴なければ年齢に応じ投与。
PPSV23(ニューモバックス®NP):PCV13から8週間空けて投与。脾摘前後2週間は避ける。以降5年毎
・Hib(ActHIB®):ワクチン歴なければ1回投与推奨
髄膜炎菌(Menactra®):PCV13接種と4週間空ける。脾摘前1回接種または脾摘後に8-12週あけて2回接種→5年毎
・インフルエンザ:二次感染予防に。
 
発熱時フロー:

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(上記文献を改変して引用)

川崎病(MCLS:mucocutaneous lymph node syndrome )

川崎病について小児科研修の最後に発表しました。小児科の先生にご意見を頂き、改編したものを下に載せます。ご参考になれば。
 
 【メニュー】
・ポイント
・概念、疫学
・症状、診断
・不全型について
・鑑別
・検査
・重症度
・治療の概要
・コンサルトのタイミング
・予後
川崎病の既往のある患児を診たら
 
 
 
【ポイント】
発熱患者(特に6か月~5歳くらい)の場合、川崎病を鑑別に挙げる
川崎病の治療の目的は冠動脈瘤形成の予防
IVIG投与が遅れないように、適切なタイミングで入院施設を持つ小児科にコンサルト
川崎病の既往のある患児を診たら「川崎病急性期カード」をチェックし、予防接種やライ症候群など注意する。
 
 
 
【概念・疫学】
原因不明の急性小中血管炎
 
好発:多くは4歳未満(80-85%) 6か月-1歳までが最多
有病率:人口10万対215/年
  →5歳までに凡そ100人に1人が罹患(日本)
男女差:男児に多い(1.3-1.5:1)
再発率:2-3%
同胞例:1-2%
 
成人発症例もある(一番高齢発症は68歳!)
Emeline G-M et al, kawasaki disease in adults : report of 10 cases, medicine, volume 89, number 3, May 2010.
 
 
【症状・診断】
・主要症状5/6以上 or 4/6 + 冠動脈瘤 + 他疾患除外
1.5 日以上続く発熱(ただし、治療により5日未満で解熱した場合も含む)
2.両側眼球結膜の充血
3.口唇、口腔所見:口唇の紅潮、いちご舌、口腔咽頭粘膜のびまん性発赤
4.不定形発疹
5.四肢末端の変化:(急性期)手足の硬性浮腫、掌蹠ないしは指趾先端の紅斑
          (回復期)指先からの膜様落屑
6.急性期における非化膿性頸部リンパ節腫脹
 
①発熱
通常は初発症状 38.5度以上が多い 稽留熱(日内差<1度)
軽症だと5日以内に解熱しうる 3-4週間持続することもある
乳児→機嫌不良 年長児→倦怠、不穏、関節痛など
 
 
②両側眼球結膜充血

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鋭敏な指標で、重要視している小児科医は多いらしい
角膜輪部(中心部)は通常充血しない
眼脂はない~白色少量 
偽膜形成なし 
・診察が難しい場合→保護者に「いつもと比べてどうか」を聞く
溶連菌感染症では通常認めない
・眼脂や偽膜形成がある場合はアデノ、SJS/TENなど考慮
 
*偽膜:フィブリン、壊死を生じた上皮細胞、浸潤細胞(主に好中球)からなり、眼表面の炎症が高度であることを示す

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③口唇・口腔所見

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口唇:口紅を塗ったように赤い 所見強いと腫脹、亀裂→出血
舌:イチゴ舌=発赤腫脹+舌乳頭肥大 溶連菌でも認めうる
口腔:粘膜は全体に発赤。扁桃白苔はほぼなし
・SJS/TEN 口腔内のびらん、潰瘍、水疱
・アデノ、EBV 扁桃白苔
・麻疹 Koplik斑
 
 
④皮膚:不定形発疹(どんな発疹でもとりうる)

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どんな皮疹でもとりうる
典型例:蕁麻疹や多型滲出性紅斑様 大小不同 地図状に部分的に癒合 平坦~やや膨隆の斑状疹
出現しやすい部位:陰部・臍
・出血斑、水疱形成はなし → 水疱やNikolsky現象(正常皮膚が容易に剥離)あればSSSS、SJS/TENも考慮
・SLEなど膠原病、自己免疫疾患も鑑別
 
参考条項→上腕のBCG接種痕:発赤腫脹はかなり特異的 接種後1年間くらいの児に限られる
 
 
⑤四肢

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手掌、足底、指関節部の発赤腫脹、指圧痕なし=硬性浮腫
典型例:光沢が出るほど腫脹 「テカテカパンパン」
→回復期:本来のしわが見られ→その後指尖部と爪床の境界から膜様落屑(発症10-15日)
*DD 感染性心内膜炎→Janeway Osler
 
 
⑥非化膿性頚部リンパ節腫脹 

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出現頻度は70%前後で他に比べて低い(他は90%以上) 
特に1歳以下の乳児には少ない
1個以上 直径1.5cm以上(成人拇指頭大) 集塊として触れる しばしば片側性 
同部の皮膚は発赤 お椀を伏せたように膨隆 圧痛強い
充実性で比較的硬い 波動なし
*鑑別:化膿性リンパ節炎、流行性耳下腺炎、EBV、菊池病など
 
 
 
【不全型川崎病
・主要症状4つ + 冠動脈瘤なし または 主要症状<3 -="" div="">
・四肢、頸症状の頻度低め、口、結膜症状は2/3-3/4の患者でみられる
・乳児のBCG接種部位発赤、年長児の多房性頸部リンパ節腫脹などは特異度高い
・主要症状が少なくても冠動脈障害を起こす例があるため、軽症と捉えないことが大切
 
 
 
【鑑別診断】
風疹、麻疹、多型滲出性紅斑、溶連菌(猩紅熱)、アデノなど
溶連菌・アデノ迅速はチェック
*ウイルス疾患と併発することがあり、上気道症状やウイルスPCR陽性があっても除外できない
 
  川崎病 麻疹 アデノ 猩紅熱
(溶連菌)
エルシニア
年齢 4歳以下 1-6歳 乳幼児~学童 5-10歳 6歳以上
発熱 (+++) (++)
二峰性
(+++) (+~++) (++)
皮膚
粘膜
不定形発疹
眼球結膜充血
紅斑:
第二峰発熱~
→癒合→色素沈着
結膜炎
眼脂
鮮紅色、粟粒大
密集性小丘疹
不定形発疹
結節性紅斑
口唇
口腔
イチゴ舌
口唇紅潮
Koplik斑 咽頭炎
滲出性扁桃炎
口腔蒼白
イチゴ舌
 
関節 時に見られる (-) (-) まれに関節痛 時に
合併 動脈瘤
無菌性髄膜炎
胆管炎胆嚢炎
肺炎中耳炎
結膜炎
重症例では脳炎
肺炎
出血性膀胱炎
髄膜炎
咽頭扁桃炎 腸炎
急性腎不全
検査 白血球増多 白血球減少
麻疹ウイルス抗体
白血球増多
アデノ抗原
白血球増多
ASO/ASK上昇
咽頭培養
白血球増多
便培養
エルシニア抗体
治療 免役グロブリン
アスピリンなど
対症療法 対症療法 ペニシリン 抗菌薬
 
 
  SJS/TEN SSSS リウマチ熱
若年性
関節リウマチ
年齢 3-30歳 1-6歳 5歳以上 2-3歳8-9歳
発熱 (++) (-)~(+) (++) Spike fever
皮膚
粘膜
多形滲出性紅斑
紅斑様皮疹
眼脂水疱びらん
Nikolsky現象
皮膚粘膜移行部に
紅斑
水疱
Nikolsky現象
輪状紅斑
皮下結節
リウマトイド疹
リウマトイド結節
口唇
口腔
点状出血斑
口唇亀裂びらん
口周囲に
放射状亀裂
(-) (-)
関節 時に (-) 一過性移動性 6週間以上持続
合併 二次感染 二次感染 MR、AR
小舞踏病
虹彩炎心膜炎
検査 白血球増多 白血球増多軽度
ブドウ球菌
白血球増多
咽頭培養
ASO/ASK上昇
白血球増多
治療 全身管理
感染予防
スキンケア
原因除去
抗菌薬 ペニシリン
ステロイド
アスピリン
アスピリン
ステロイド
免疫抑制薬
 
 
【検査】
①鑑別目的                               
アデノ、溶連菌迅速 ほか必要に応じ便培養、エルシニア抗体、ASO/ASKなど
②重症度評価目的
血算(白血球分画含む)
TP/Alb AST/ALT/TBil/γGT Na/K/Cl BUN/Cre
NTpro-BNP → 川崎病の参考所見
ESR
PT/APTT/Dダイマー/FDP → 血管炎であることの参考所見
尿定性/沈査 → 無菌性膿尿も参考所見になる
 
 
【重症度 群馬スコア 】
2点 Na≦133mEq/l
2点 AST≧100U/l
2点 診断(治療開始)病日≦第4病日 → 早い段階で診断がつく=それだけ症状が強い
2点 好中球≧80%
1点 CRP≧10mg/dl
1点 Plt≦30万/μl
1点 年齢≦12 months
→5点以上で、IVIG不応例に対して感度76%特異度80%
 
 
【治療概要】
目的→冠動脈瘤の予防(第7-9病日あたりが一番汎冠動脈炎の炎症が強い?)
 
・静注用免疫グロブリン(IVIG)投与                       
 冠動脈病変発症率は25%→5%に減少(第7病日以前にIVIG投与開始が望ましい)
 
・抗血小板薬投与(アスピリンが第一選択)
 血栓形成予防
 
↓IVIG不応例
ステロイド(パルス)、血漿交換、生物製剤、免疫抑制剤
 
 
 
【紹介のタイミング】
(非医学的な要因、全身状態不良は除く)
 
川崎病だとしたら、第7病日までにはIVIG開始したい              
→遅くとも、第5-6病日に小児科で診断できるようにしたい
 
①発熱≧5日:
 他に確定的な診断がない
 診断はついているが川崎病併発も疑われる
 
②発熱<5日:
 他の5症状のうち4-5症状ある
 1-3/5症状でもBCG接種痕発赤などあり疑わしいとき
 
*来院前の症状も確認!
症状が出たり引いたりすることがあり、来院時に必ずしも揃ってないこともある
*迷ったら、採血値なども参考になる(CRP上昇、Na低下、Alb低下など)
 
 
【予後】
→14%が冠動脈瘤
→約半数は自然消退
 稀に破裂
 2%が虚血性心疾患
 1%が心筋梗塞
 0.5%が突然死
若年成人の虚血性心疾患を見たら、川崎病の病歴(KD既往、不明熱など)を聴取!
 

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川崎病の既往のある患児を診たら】
⓪治療内容の確認
川崎病急性期カード」が母子手帳にあれば見せてもらう。

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アスピリン(ASA)投与している児の場合
・インフルエンザ,水痘罹患時にアスピリン投与はライ症候群の発症と関連あり
*ライ症候群:急性脳症と肝脂肪変性,死亡や後遺症発生のリスク高い
(低用量投与時のリスクは不明確)
 
・ASA投与中に疑わしい症状が出現した場合
→一時的に中止することが多い。
 
特にCALある場合は、入院中の担当医に相談 電話問い合わせ
 
②IVIG投与していた児の注意
○予防接種
MR・水痘・おたふく(=非経口生ワクチン)
 →6か月空ける(一時的にウイルス血症を惹起。抗体つきにくい)
他のワクチン
→通常通り接種可(急がない場合は、2か月を過ぎたあたりで行うのが無難)
 
献血→不可(現在の検査法では検出できない未知のウイルス感染の可能性)
                     http://www.jrc.or.jp/donation/about/refrain/detail_05/
 
③冠動脈瘤を形成した児の場合
・小さいほど自然退縮しやすく、約半数が1-2年で退縮
・巨大瘤は自然退縮しにくい
・胸痛などで来院した場合は、ACSも考慮
 
 
【参考文献】
・Robert S, Kawasaki disease: Epidemiology and etiology, UpToDate, last updated Apr 01, 2016.
・Robert S, Kawasaki disease: Clinical features and diagnosis, UpToDate, last updated Feb 22, 2016.
・Aaron S, Diagnosis and Management of Kawasaki Disease, Am Fam Physician. 2015 Mar 15;91(6):365-371.
・中野 康伸, 自信がつく! Dr.中野のこどものみかた(上巻)ケアネットDVD, 2004, ケアネット.
川崎病(MCLS、小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群)診断の手引き (厚生労働省川崎病研究班作成改訂5版)
石井正弘, 五十嵐隆, 川崎病のすべて (小児科臨床ピクシス), 全訂新版, 2015, 中山書店.
・Jessica LT et al, Concurrent Respiratory Viruses and Kawasaki Disease, Pediatrics, September 2015, VOLUME 136 / ISSUE 3.
・Jartti T, Lehtinen P, Vuorinen T, Koskenvuo M, Ruuskanen O. Persistence of rhinovirus and enterovirus RNA after acute respiratory illness in children. J Med Virol. 2004;72(4):695–699pmid:14981776
・塚田瑞葉ら, 両側冠動脈瘤を合併した成人発症型川崎病の1例, 心臓 vol.45 No.11(2013).
・Emeline G-M et al, kawasaki disease in adults : report of 10 cases, medicine, volume 89, number 3, May 2010.

クループ

診察室で「ケンケン」と聞こえたら真っ先に考えるべき疾患でしょうか。

咳をあまりしてくれない子もいて、そういう子は泣いた後に「ヒュオッ」と息を吸うのがクループっぽいと小児科の先生が教えてくれました。

 

 
【定義、特徴】
特徴:喉頭、声帯下の炎症によるStridor、咳、嗄声などの呼吸障害
病因:ウイルスが多く、細菌は二次性。パラインフル1が最多、ほかRSウイルス、インフルエンザ
好発:6-36か月に最多、春から初秋
 
*好発年齢以外なら器質的疾患考慮
6ヶ月未満 血管輪など
学童以降 ポリープ、腫瘍など
 
 
【臨床症状、評価、診断】
鼻過敏、鼻閉、咳など上気道症状から始まり徐々に増悪
12-48時間以内に発熱(平熱例もある)、嗄声、犬吠咳(けんばい)、stridor
 
嗄声や犬吠咳:急性喉頭蓋炎、異物、血管神経浮腫では通常なし
発熱:ない場合は痙攣性クループ、異物、血管神経浮腫など
嚥下困難:急性喉頭蓋炎、異物など
流涎:扁桃周囲・咽後膿瘍、咽頭後壁蜂窩織炎喉頭蓋炎。あるスタディでは喉頭蓋炎の80%、クループの10%にみられた。
咽頭痛:喉頭蓋炎で60-70%、クループで10%
大泣き後の吸気時のヒュー音:名称がなさそうだけど、小児科drによると有用とのこと
 
○診断
犬吠様咳嗽やStridor、流行状況などから総合判断
              
○診察
できれば泣かさず診察(浮腫悪化の懸念)
咽頭や鼓膜などの診察は場合によっては省略したり後で行う
 
○鑑別
喉頭蓋炎:発熱、ぐったり、sniffing positionなど
気管異物 5killer sore throat 血管神経浮腫 上気道損傷 上気道奇形 など
 
○レントゲン:特に異物の除外に有用

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(文献2より)Steeple sign(上気道狭窄):正常児でも呼吸の相によっては見えることあり 
 

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(文献2より)矢印:声帯下狭窄 矢頭:下咽頭の拡張
 
youtubeで典型的な犬吠様咳嗽のビデオがあります。 
 
【重症度】The Westley croup score
項目\点数 0 1 2 3 4 5
意識 正常(睡眠含む)         失見当識
チアノーゼ なし       興奮時 安静時
Stridor なし 興奮時 安静時      
Air入り 正常 減少 著明減少      
陥没呼吸 なし 軽度 中等度 高度    
 
0-2点:軽症
3-7点:中等度
8-11点:重症
12-17点:切迫呼吸不全
→前駆症状として倦怠感、著明な陥没呼吸、呼吸音減弱、意識レベル低下、熱以上の頻脈、チアノーゼや蒼白
 
 
【マネジメント】
①軽症例:デキサメタゾン→効果遅い、再発予防目的
・経口のデキサメタゾンの単回投与:0.15~0.6㎎/㎏ 0.1mg/ml
(文献1では同量のベタメタゾンや、筋注静注も可となっている。)
・軽症ではエピネフリン(ボスミン®)吸入は文献1では推奨なし
・湿気の吸入:メタ解析で効果ないが、快適かもしれない。使っても変わらなければ中止。
 
②中等~重症:ボスミン®吸入+デキサメタゾン
・ボスミン外用液0.1%:生食2mLに溶かして15分で吸入 効果早い
(文献1は0.2ml、文献2は0.05mL/kg(最大0.5mL) 現在の勤務先は0.5mlに統一されてる)
・15-20分毎に繰り返し投与OK、2-3時間以内に3回以上投与するなら心電図モニターするべき
 
デキサメタゾンやリンデロンのシロップ剤は、甘ったるくて量も多くて飲むのは大変。
 細粒があればそちらの方が飲みやすいかも
*ボスミンや加湿でかえって泣いたりして悪化することもあるため、軽症でやるかどうかは微妙
 
 
【参考】
1)横田俊平, 他, 小児の薬の選び方使い方, 改訂第4版, 2015, 南山堂.
2)Charles RW, Croup: Clinical features, evaluation, and diagnosis, UpToDate, last updated Dec 15, 2015.
3)Charles RW, Croup: Approach to management, UpToDate, last updated Apr 17, 2015.

アデノウイルス アデノ アデノ迅速

小児科研修中。
小児科の先生は上気道症状の患児に対して、アデノウイルスの迅速検査をよくオーダーしています。
特に治療方針に影響は与えないはずだけど、どういった目的で検査するのだろうと聞いてみると、
・通常より経過が長かったり、CRPが比較的高値が出るので、経過の予測に役立つ
・原因が分かったほうが、家族(特に母親)に説明しやすい とのこと。
もちろん細菌の混合感染や二次性感染もあるから決めつけてはいけないけど、使い方次第では有用な検査と思われます。
 
 
【特徴】
小児の発熱性疾患の要因。
咽頭炎や鼻風邪といった上気道症状と最も関連がある
肺炎にもなりうる。
胃腸、眼科、生殖泌尿器、神経疾患の原因にもなり得る。
多くは自然軽快するが、免疫不全患者や健康人にも時に致命的になる。
アルコール消毒は効きにくい?
 
幼児
咽頭炎、鼻感冒、中耳炎
肺炎
下痢
小児
上気道炎、肺炎
咽頭結膜熱
下痢、腸間膜リンパ節炎
出血性膀胱炎
成人
急性呼吸器病
流行性角結膜炎
免疫不全者
肺炎
腸炎、肝炎
出血性膀胱炎、間質性腎炎
髄膜脳炎
 
 
【疫学】
世界中に分布し通年で発生する。
幼児や若年小児の発熱の5-10%。
多くは10歳までに既感染の血清学的証拠がある。集団感染が多い
 
 
【分類】
50種類以上いてA-Fの6グループに分かれる。
Subgroup
Serotypes血清型 Clinical syndromes臨床症状
A 31 Infantile gastroenteritis 幼児の胃腸炎
B
3、7、21 Upper respiratory disease 上気道炎,
pneumonia 肺炎,
pharyngoconjunctival fever 咽頭結膜熱
11、34、35 Hemorrhagic cystitis 出血性膀胱炎,
interstitial nephritis 間質性腎炎
14 Pneumonia 肺炎
C 1,2,5 Upper respiratory disease 上気道炎,
pneumonia 肺炎,
hepatitis 肝炎
D 8, 19, 37 Epidemic keratoconjunctivitis 流行性角結膜炎
E 4 Upper respiratory disease 上気道炎,
pneumonia 肺炎
F 40, 41 Infantile gastroenteritis 幼児の胃腸炎
 
 
咽頭結膜熱=プール熱
特徴:多くはプールなどを介して感染。2類感染症→学校出席停止
疫学:夏季。学童、5歳以下の乳幼児
症状:良性の濾胞性角結膜炎、有熱性の咽頭炎、頚部リンパ節炎
全身:発熱、頭痛、食欲低下、全身倦怠感
眼 :眼痛、流涙、結膜炎、眼脂、羞明
呼吸:咽頭炎咽頭
 
 
特徴:治癒まで2-4週かかる、角膜混濁による視力障害起きうる。3類感染症→出席停止
エンテロウイルスの出血性結膜炎→約1週間で治癒
疫学:1-5歳に多いが、成人など幅広い年齢層にある
症状:両側性結膜炎、耳介前部リンパ節腫脹 → その後有痛性の角膜混濁
   自然軽快。視力障害は残存しない
 
 
【迅速検査】
Reference standardがmultiplex PCR /  sen77.9 spe73.6
Reference standardがshell-viral culture /  sen80.0 spe60.9
(文献3より。日本の迅速キットとは違う)
 
クイックナビアデノの添付文書では
咽頭ぬぐい液検査はPCRをReference standardとすると
Sen87.7 Spe96.9 となっている。
 
 
 
 
【参考】
1)Phyllis F, Epidemiology and clinical manifestations of adenovirus infection, UpToDate, last updated Mar 29, 2016.
2)Flor MM, Diagnosis, treatment, and prevention of adenovirus infection, UpToDate, last updated Jun 3, 2015.
3)(抄録のみ) Romero-Gómez MP, Immunochromatographic test for detection of adenovirus from respiratory samples: is it a real solution for pediatric emergency department?,J Virol Methods. 2014 Jan;195:236-9. doi: 10.1016/j.jviromet.2013.09.002. Epub 2013 Oct 3.
4)クイックナビアデノ添付文書

インフルエンザ predictive symptoms and signs of laboratory-confirmed influenza

Yang, Jeng-How et al, Predictive symptoms and signs of laboratory-confirmed influenza, Medicine. 2015 Nov;94(44):e1952.
 
成人のインフルエンザ患者の、問診や迅速検査の診断精度に関して検討したスタディです。
 
P:台湾の2つの都市部で、18歳以上の成人で上気道症状を呈して外来クリニックを訪れた人
(上気道症状:発熱、咳、寒気、頭痛、倦怠感、咽頭痛、鼻汁、鼻閉、筋肉痛の1つ以上)
平均33歳、基礎疾患を持つ人の割合も10%程度
 
E:各症状や問診(統一された質問票)、RIDT(迅速抗原検査)
C:RT-PCR(リアルタイムPCR)and or 培養
O:インフルエンザ診断の精度
 
・Reference standardとしてPCRや培養は適切と思われます。
・ExposureとComparisonは互いに独立して評価されています。
・Exposure、Comparisonともに再現性も問題ないと思われます。
 
Reference standardと問診は全員に実施されています。
迅速検査は実施されていない人もいます(臨床判断でするかしないかを決定した?)

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結果は以下です。

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 発熱、咳と、咽頭痛、くしゃみ、soreness(痛み、苦痛といった意味のようですが、どこの痛みのことなんでしょう?)などの組み合わせが有用なようです。
私個人としてはインフルエンザの人がくしゃみをしてるイメージはあまりないんですが、皆さんどう思われるでしょうか。

咳のNLRが0.1(0.02-0.42)であり、咳がない場合には可能性はかなり下がるようです。

迅速検査(RIDT)も陽性・陰性尤度比ともにそれなりに有用なようですが、前述のとおり全員に実施されているわけではないので、選択バイアスの問題で過大評価されている可能性はあるかもしれません。
 
 

高血圧 A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control

JT wright, et al, A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control,N Engl J Med. 2015; 373:2103-2116

高齢者も含め比較的心血管リスクが高い人に対して、降圧目標をどの程度にすればいいかを検討したスタディです。
 
P 50歳以上でSBP130-180の方のうち、糖尿病・脳梗塞以外の心血管リスクがある人
*糖尿病・脳梗塞以外の心血管リスクとして、以下の1つ以上を満たすことが挙げられています。臨床的または無症状な心臓血管疾患
慢性腎臓病(多発性嚢胞腎以外で、eGFR20-60)
Framingham risk scoreで心血管10年リスクが15%以上
75歳以上
 
E SBP<120を目標とする群(Intensive treatment) 
C SBP<140(130-139)を目標とする群(Standard treatment)
O primary:心筋梗塞、ほかのACS脳梗塞心不全、心血管死の結合アウトカム
  secondary:個々のアウトカム、全死亡、primary+全死亡の結合アウトカム
 
・ランダム割り付けされている。割り付け方法はわかりませんでした。
・Baselineはおおむね同等:平均67.9歳、75歳以上が28.2%
・ITT解析されている
・追跡率89.4%、追跡期間は平均3.26年
(5年間の目標だったが思ったより差が出たため早めに打ち切りとなった)
・マスキングはなし
・サンプルサイズは十分
 
結果は以下です。
 

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Primary outcomeは有意にIntensive treatment群で減少しています。
(計算すると、NNTは62.5でした)
Secondary outcomeで有意差があるのは心不全、心血管死、全死亡、Primary outcomeまたは死亡の4項目です。
 
高齢者であっても、Intensive treatment群のほうが予後を改善するという結論になっています。
 
この論文の適用に当たり注意すべきこととしては、
・副作用としてAKI、低血圧、電解質異常(低Na、低K)が多いこと
・介護を必要とする高齢者は含まれていないこと
・長期間使用での腎機能への影響は不明であること
・糖尿病や脳卒中の既往がある方は含まれていないこと
・Intensive treatment群では降圧薬の使用量が多い(Intensive treatmentは平均3剤、Standard treatment群は平均1.9剤)ため、アドヒアランスの低下が起こりうること
拡張期血圧の目標値に関しては記載がないこと
などが挙げられるでしょうか。
 
JNC8で60歳以上は降圧目標を150/90にするといったことが言われていたので、この論文をどう臨床に応用するかは難しいところかと思います。
SBP120を目標にするのは大変かなと思い、間をとって130/80くらいを目標にしようかな などと考えています。
このStudyの結果を皆さんはどのように適用されるのか、ご意見を是非伺いたいです。