健康な30代の男性、主訴は発熱。
昨日から体熱感があり、市販の解熱薬を飲むと少し楽になったという。(体温測定せず)
本日来院時は体温36.6度で解熱薬の使用はなし。
他の症状を聞くと、咽頭痛・嚥下時痛があるが他の上気道症状はないと。
また、子供が数週間前に溶連菌性咽頭炎にかかったという。
診察上、両側扁桃に白苔付着があるが、前頸部リンパ節の圧痛や腫脹はなし。
Centor score2点と考え、迅速検査するも陰性。
ウイルス性の咽頭炎として対症療法を行うこととした。
迅速検査陰性ってだけで否定していいのかな?と思いまとめてみることとしました。
Centor score2点で溶連菌性咽頭炎の可能性が11-17%、迅速検査のLR-が0.11-0.3というデータを用いると
本症例の溶連菌性咽頭炎の事後確率は直感的には限りなく0%に近づきますね。
ちゃんと計算すると、0.01%~0.06%となりました。
罹患した子供との接触があるので、もう少し可能性を上げてもいいかもしれませんが、溶連菌性咽頭炎はどちらにしても否定できたと考えてよさそうだと思いました。
【概論】
嚥下時痛でない→ほかの疾患(例:AMI、解離、くも膜下出血)の除外
*開口障害=咀嚼筋(咬筋、蝶形骨筋)の圧力や炎症、または三叉神経麻痺を示唆
咽頭炎の90%はウイルス性
【溶連菌性扁桃炎】
・modified Centor criteria
38℃以上の発熱
咳がない
扁桃の白苔+発赤
圧痛を伴う前頚部のリンパ節腫脹
3-14歳はプラス1点、
45歳以上はマイナス1点
ポイント | LR+ | 溶連菌の確率 | Disposition |
-1,0 | 0.05 | 1-2.5% | 検査不要 |
1 | 0.52 | 5-10% | 検査不要 |
2 | 0.95 | 11-17% | 迅速検査 |
3 | 2.5 | 28-35% | 迅速検査 |
4 | 4.9 | 51-53% | 抗菌薬考慮 |
*3-4点全てで抗菌薬治療すると、overtreatmentが50% undertreatmentが10-20%
・迅速検査
感度70-90% 特異度90-100% LR+ 7-∞、LR- 0.11-0.3
(文献5より計算)
・他のポイント
年齢がやはり大事=小児の病気。成人であれば、sick contactがあるかどうかが大事
小児の場合、猩紅熱様の皮疹はLR2.0-7.6と有用
*猩紅熱:溶連菌の毒素による発熱・皮疹。イチゴ舌や咽頭炎の所見が見られる
点状紅斑様、日焼け様の皮疹
(文献3)
前頸部リンパ節:腫脹なくても触れて痛みあれば+ととる
白苔;朝にはなくて夕にあるというケースも
鼻汁がない→1点(の気分)
左右の喉のどちらかが痛い→1点(の気分)
嚥下時痛:食事で改善しない
*ウイルスっぽい咽頭痛:咳嗽時のみ増強、起床時に強い、食事中軽快
・治療
①意義
除菌失敗による再発が15%
症状の短縮:16時間程度。病日3日目の疼痛が減少(NNT6)
90%の症例では治療なしでも1週間以内に症状消失
診断に迷う場合は数日以内に再度診察でOK
・合併症の予防
リウマチ熱:NNT4000 現在では稀なため予防効果少ない
中耳炎:NNT29
副鼻腔炎:NNT50
扁桃周囲膿瘍:NNT27
糸球体腎炎や髄膜炎:予防効果なし?
②内服
バイシリンG 80万単位1日4回 10日間
サワシリン500mg 1日3回 10日間
*ペニシリンアレルギーなら
クラリスロマイシン200mg1日2回 10日間
ジスロマック500mg1日1回 3日間
③点滴
ペニシリンG 100万単位1日4-6回 10日間
【5 killer sore throat】
*考慮すべき状況
よだれ、発生困難、こもり声、頸部腫脹、特に嚥下困難(uptodate)
嚥下痛や咳嗽痛がない、咽頭所見が軽い
①急性喉頭蓋炎:
後期にはsniffing position(鼻をかぐ姿勢)や唾が飲めないなど
②扁桃周囲膿瘍:開口障害、前口蓋弓の前方への突出など
③咽頭後方=咽後膿瘍:
原疾患となり得る外傷、異物や口腔咽喉頭、歯牙の炎症性疾患の治療中や初診時
咽頭痛、発熱といった一般的な炎症症状に加えて、呼吸困難、嚥下困難、開口障害が出現し、
さらに頸部の発赤、腫脹、疼痛、ときに握雪音が出現する場合には
単なる上気道炎ではなく頸部下方の各間隙に感染波及した重症感染症を疑う
発熱悪寒、倦怠感、項部硬直、嚥下困難、sniffing position
若年者、口腔内感染症の先行、嚥下困難、開口困難
【その他の疾患】
・亜急性甲状腺炎:
多くは自然軽快、ステロイドの適応も考慮
痛みの部位の移動、耳の下への放散痛
・伝染性単核球症:
EBVが最多、青年期~若年成人
発熱咽頭痛、後頸部など頸部リンパ節腫脹、肝脾腫、
毛布のような扁桃白苔、
左前腋下線と肋骨下縁の交点が打診でdull(castells point)=脾腫→嘔気、腹満感
3日以上経っても軽快しない
ペニシリンで全身性紅斑
検査としてはCMV-IgMと以下
ViralCapsidAntigen(VCA)-IgM | VCA-IgG | EBNA | |
既感染 | - | + | + |
初感染 | + | +か- | - |
初感染の初期 | - | + | - |
→器質的疾患除外後、半夏厚朴湯が効くかも
【参考文献】
1)岸田直樹, 誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた, 第1版, 2012, 医学書院.
2)岩田健太郎, 宮入烈, 抗菌薬の考え方、使い方 ver.3, 第3版, 2012, 中外医学社.
3)国立感染症研究所感染症情報センター , 感染症の話, Infectious Disease Weekly Report,http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k01_g3/k01_34/k01_34.html, accessed 2015/11/11.
4)上田剛士, ジェネラリストのための内科診断リファレンス, 第1版, 2014, 医学書院.
5)Anthony WC et al, Evaluation of acute pharyngitis in adults, UpToDate, accessed 2015/11/11.