川崎病(MCLS:mucocutaneous lymph node syndrome )
川崎病について小児科研修の最後に発表しました。小児科の先生にご意見を頂き、改編したものを下に載せます。ご参考になれば。
【メニュー】
・ポイント
・概念、疫学
・症状、診断
・不全型について
・鑑別
・検査
・重症度
・治療の概要
・コンサルトのタイミング
・予後
・川崎病の既往のある患児を診たら
【ポイント】
発熱患者(特に6か月~5歳くらい)の場合、川崎病を鑑別に挙げる
IVIG投与が遅れないように、適切なタイミングで入院施設を持つ小児科にコンサルト
【概念・疫学】
原因不明の急性小中血管炎
好発:多くは4歳未満(80-85%) 6か月-1歳までが最多
有病率:人口10万対215/年
→5歳までに凡そ100人に1人が罹患(日本)
男女差:男児に多い(1.3-1.5:1)
再発率:2-3%
同胞例:1-2%
成人発症例もある(一番高齢発症は68歳!)
Emeline G-M et al, kawasaki disease in adults : report of 10 cases, medicine, volume 89, number 3, May 2010.
【症状・診断】
・主要症状5/6以上 or 4/6 + 冠動脈瘤 + 他疾患除外
1.5 日以上続く発熱(ただし、治療により5日未満で解熱した場合も含む)
2.両側眼球結膜の充血
3.口唇、口腔所見:口唇の紅潮、いちご舌、口腔咽頭粘膜のびまん性発赤
4.不定形発疹
5.四肢末端の変化:(急性期)手足の硬性浮腫、掌蹠ないしは指趾先端の紅斑
(回復期)指先からの膜様落屑
6.急性期における非化膿性頸部リンパ節腫脹
①発熱
通常は初発症状 38.5度以上が多い 稽留熱(日内差<1度)
軽症だと5日以内に解熱しうる 3-4週間持続することもある
乳児→機嫌不良 年長児→倦怠、不穏、関節痛など
②両側眼球結膜充血
鋭敏な指標で、重要視している小児科医は多いらしい
角膜輪部(中心部)は通常充血しない
眼脂はない~白色少量
偽膜形成なし
・診察が難しい場合→保護者に「いつもと比べてどうか」を聞く
・溶連菌感染症では通常認めない
・眼脂や偽膜形成がある場合はアデノ、SJS/TENなど考慮
*偽膜:フィブリン、壊死を生じた上皮細胞、浸潤細胞(主に好中球)からなり、眼表面の炎症が高度であることを示す
③口唇・口腔所見
口唇:口紅を塗ったように赤い 所見強いと腫脹、亀裂→出血
舌:イチゴ舌=発赤腫脹+舌乳頭肥大 溶連菌でも認めうる
口腔:粘膜は全体に発赤。扁桃白苔はほぼなし
・SJS/TEN 口腔内のびらん、潰瘍、水疱
・アデノ、EBV 扁桃白苔
・麻疹 Koplik斑
④皮膚:不定形発疹(どんな発疹でもとりうる)
どんな皮疹でもとりうる
典型例:蕁麻疹や多型滲出性紅斑様 大小不同 地図状に部分的に癒合 平坦~やや膨隆の斑状疹
出現しやすい部位:陰部・臍
・出血斑、水疱形成はなし → 水疱やNikolsky現象(正常皮膚が容易に剥離)あればSSSS、SJS/TENも考慮
・SLEなど膠原病、自己免疫疾患も鑑別
参考条項→上腕のBCG接種痕:発赤腫脹はかなり特異的 接種後1年間くらいの児に限られる
⑤四肢
手掌、足底、指関節部の発赤腫脹、指圧痕なし=硬性浮腫
典型例:光沢が出るほど腫脹 「テカテカパンパン」
→回復期:本来のしわが見られ→その後指尖部と爪床の境界から膜様落屑(発症10-15日)
*DD 感染性心内膜炎→Janeway Osler
⑥非化膿性頚部リンパ節腫脹
出現頻度は70%前後で他に比べて低い(他は90%以上)
特に1歳以下の乳児には少ない
1個以上 直径1.5cm以上(成人拇指頭大) 集塊として触れる しばしば片側性
同部の皮膚は発赤 お椀を伏せたように膨隆 圧痛強い
充実性で比較的硬い 波動なし
*鑑別:化膿性リンパ節炎、流行性耳下腺炎、EBV、菊池病など
【不全型川崎病】
・主要症状4つ + 冠動脈瘤なし または 主要症状<3 -="" div="">
・四肢、頸症状の頻度低め、口、結膜症状は2/3-3/4の患者でみられる
・乳児のBCG接種部位発赤、年長児の多房性頸部リンパ節腫脹などは特異度高い
・主要症状が少なくても冠動脈障害を起こす例があるため、軽症と捉えないことが大切
【鑑別診断】
風疹、麻疹、多型滲出性紅斑、溶連菌(猩紅熱)、アデノなど
溶連菌・アデノ迅速はチェック
*ウイルス疾患と併発することがあり、上気道症状やウイルスPCR陽性があっても除外できない
川崎病 | 麻疹 | アデノ | 猩紅熱 (溶連菌) |
エルシニア | |
年齢 | 4歳以下 | 1-6歳 | 乳幼児~学童 | 5-10歳 | 6歳以上 |
発熱 | (+++) | (++) 二峰性 |
(+++) | (+~++) | (++) |
皮膚 粘膜 |
不定形発疹 眼球結膜充血 |
紅斑:
第二峰発熱~
→癒合→色素沈着 |
結膜炎 眼脂 |
鮮紅色、粟粒大 密集性小丘疹 |
不定形発疹 結節性紅斑 |
口唇 口腔 |
イチゴ舌 口唇紅潮 |
Koplik斑 | 咽頭炎 滲出性扁桃炎 |
口腔蒼白 イチゴ舌 |
|
関節 | 時に見られる | (-) | (-) | まれに関節痛 | 時に |
合併 | 冠動脈瘤 無菌性髄膜炎 胆管炎胆嚢炎 |
肺炎中耳炎 結膜炎 重症例では脳炎 |
肺炎 出血性膀胱炎 脳髄膜炎 |
咽頭扁桃炎 | 胃腸炎 急性腎不全 |
検査 | 白血球増多 | 白血球減少 麻疹ウイルス抗体 |
白血球増多 アデノ抗原 |
白血球増多 ASO/ASK上昇 咽頭培養 |
白血球増多 便培養 エルシニア抗体 |
治療 | 免役グロブリン アスピリンなど |
対症療法 | 対症療法 | ペニシリン | 抗菌薬 |
SJS/TEN | SSSS | リウマチ熱 |
若年性
関節リウマチ
|
|
年齢 | 3-30歳 | 1-6歳 | 5歳以上 | 2-3歳8-9歳 |
発熱 | (++) | (-)~(+) | (++) | Spike fever |
皮膚 粘膜 |
多形滲出性紅斑 紅斑様皮疹 眼脂水疱びらん Nikolsky現象 |
皮膚粘膜移行部に 紅斑 水疱 Nikolsky現象 |
輪状紅斑 皮下結節 |
リウマトイド疹 リウマトイド結節 |
口唇 口腔 |
点状出血斑 口唇亀裂びらん |
口周囲に
放射状亀裂
|
(-) | (-) |
関節 | 時に | (-) | 一過性移動性 | 6週間以上持続 |
合併 | 二次感染 | 二次感染 | MR、AR 小舞踏病 |
虹彩炎心膜炎 |
検査 | 白血球増多 | 白血球増多軽度 ブドウ球菌 |
白血球増多 咽頭培養 ASO/ASK上昇 |
白血球増多 |
治療 | 全身管理 感染予防 スキンケア 原因除去 |
抗菌薬 | ペニシリン ステロイド アスピリン |
アスピリン ステロイド 免疫抑制薬 |
【検査】
①鑑別目的
アデノ、溶連菌迅速 ほか必要に応じ便培養、エルシニア抗体、ASO/ASKなど
②重症度評価目的
血算(白血球分画含む)
TP/Alb AST/ALT/TBil/γGT Na/K/Cl BUN/Cre
ESR
PT/APTT/Dダイマー/FDP → 血管炎であることの参考所見
尿定性/沈査 → 無菌性膿尿も参考所見になる
【重症度 群馬スコア 】
2点 Na≦133mEq/l
2点 AST≧100U/l
2点 診断(治療開始)病日≦第4病日 → 早い段階で診断がつく=それだけ症状が強い
2点 好中球≧80%
1点 CRP≧10mg/dl
1点 Plt≦30万/μl
1点 年齢≦12 months
→5点以上で、IVIG不応例に対して感度76%特異度80%
【治療概要】
目的→冠動脈瘤の予防(第7-9病日あたりが一番汎冠動脈炎の炎症が強い?)
・静注用免疫グロブリン(IVIG)投与
冠動脈病変発症率は25%→5%に減少(第7病日以前にIVIG投与開始が望ましい)
・抗血小板薬投与(アスピリンが第一選択)
血栓形成予防
↓IVIG不応例
【紹介のタイミング】
(非医学的な要因、全身状態不良は除く)
川崎病だとしたら、第7病日までにはIVIG開始したい
→遅くとも、第5-6病日に小児科で診断できるようにしたい
①発熱≧5日:
他に確定的な診断がない
診断はついているが川崎病併発も疑われる
②発熱<5日:
他の5症状のうち4-5症状ある
1-3/5症状でもBCG接種痕発赤などあり疑わしいとき
*来院前の症状も確認!
症状が出たり引いたりすることがあり、来院時に必ずしも揃ってないこともある
*迷ったら、採血値なども参考になる(CRP上昇、Na低下、Alb低下など)
【予後】
→14%が冠動脈瘤
→約半数は自然消退
稀に破裂
2%が虚血性心疾患
1%が心筋梗塞
0.5%が突然死
↓
若年成人の虚血性心疾患を見たら、川崎病の病歴(KD既往、不明熱など)を聴取!
【川崎病の既往のある患児を診たら】
⓪治療内容の確認
①アスピリン(ASA)投与している児の場合
・インフルエンザ,水痘罹患時にアスピリン投与はライ症候群の発症と関連あり
*ライ症候群:急性脳症と肝脂肪変性,死亡や後遺症発生のリスク高い
(低用量投与時のリスクは不明確)
・ASA投与中に疑わしい症状が出現した場合
→一時的に中止することが多い。
特にCALある場合は、入院中の担当医に相談 電話問い合わせ
②IVIG投与していた児の注意
○予防接種
MR・水痘・おたふく(=非経口生ワクチン)
→6か月空ける(一時的にウイルス血症を惹起。抗体つきにくい)
他のワクチン
→通常通り接種可(急がない場合は、2か月を過ぎたあたりで行うのが無難)
○献血→不可(現在の検査法では検出できない未知のウイルス感染の可能性)
③冠動脈瘤を形成した児の場合
・小さいほど自然退縮しやすく、約半数が1-2年で退縮
・巨大瘤は自然退縮しにくい
・胸痛などで来院した場合は、ACSも考慮
【参考文献】
・Robert S, Kawasaki disease: Epidemiology and etiology, UpToDate, last updated Apr 01, 2016.
・Robert S, Kawasaki disease: Clinical features and diagnosis, UpToDate, last updated Feb 22, 2016.
・Aaron S, Diagnosis and Management of Kawasaki Disease, Am Fam Physician. 2015 Mar 15;91(6):365-371.
・中野 康伸, 自信がつく! Dr.中野のこどものみかた(上巻)ケアネットDVD, 2004, ケアネット.
・Jessica LT et al, Concurrent Respiratory Viruses and Kawasaki Disease, Pediatrics, September 2015, VOLUME 136 / ISSUE 3.
・Jartti T, Lehtinen P, Vuorinen T, Koskenvuo M, Ruuskanen O. Persistence of rhinovirus and enterovirus RNA after acute respiratory illness in children. J Med Virol. 2004;72(4):695–699pmid:14981776
・Emeline G-M et al, kawasaki disease in adults : report of 10 cases, medicine, volume 89, number 3, May 2010.