家庭医療専門医の勉強記録

医学・非医学問わず、学んだことを投稿しています。内容の間違いなどありましたらご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

アデノウイルス アデノ アデノ迅速

小児科研修中。
小児科の先生は上気道症状の患児に対して、アデノウイルスの迅速検査をよくオーダーしています。
特に治療方針に影響は与えないはずだけど、どういった目的で検査するのだろうと聞いてみると、
・通常より経過が長かったり、CRPが比較的高値が出るので、経過の予測に役立つ
・原因が分かったほうが、家族(特に母親)に説明しやすい とのこと。
もちろん細菌の混合感染や二次性感染もあるから決めつけてはいけないけど、使い方次第では有用な検査と思われます。
 
 
【特徴】
小児の発熱性疾患の要因。
咽頭炎や鼻風邪といった上気道症状と最も関連がある
肺炎にもなりうる。
胃腸、眼科、生殖泌尿器、神経疾患の原因にもなり得る。
多くは自然軽快するが、免疫不全患者や健康人にも時に致命的になる。
アルコール消毒は効きにくい?
 
幼児
咽頭炎、鼻感冒、中耳炎
肺炎
下痢
小児
上気道炎、肺炎
咽頭結膜熱
下痢、腸間膜リンパ節炎
出血性膀胱炎
成人
急性呼吸器病
流行性角結膜炎
免疫不全者
肺炎
腸炎、肝炎
出血性膀胱炎、間質性腎炎
髄膜脳炎
 
 
【疫学】
世界中に分布し通年で発生する。
幼児や若年小児の発熱の5-10%。
多くは10歳までに既感染の血清学的証拠がある。集団感染が多い
 
 
【分類】
50種類以上いてA-Fの6グループに分かれる。
Subgroup
Serotypes血清型 Clinical syndromes臨床症状
A 31 Infantile gastroenteritis 幼児の胃腸炎
B
3、7、21 Upper respiratory disease 上気道炎,
pneumonia 肺炎,
pharyngoconjunctival fever 咽頭結膜熱
11、34、35 Hemorrhagic cystitis 出血性膀胱炎,
interstitial nephritis 間質性腎炎
14 Pneumonia 肺炎
C 1,2,5 Upper respiratory disease 上気道炎,
pneumonia 肺炎,
hepatitis 肝炎
D 8, 19, 37 Epidemic keratoconjunctivitis 流行性角結膜炎
E 4 Upper respiratory disease 上気道炎,
pneumonia 肺炎
F 40, 41 Infantile gastroenteritis 幼児の胃腸炎
 
 
咽頭結膜熱=プール熱
特徴:多くはプールなどを介して感染。2類感染症→学校出席停止
疫学:夏季。学童、5歳以下の乳幼児
症状:良性の濾胞性角結膜炎、有熱性の咽頭炎、頚部リンパ節炎
全身:発熱、頭痛、食欲低下、全身倦怠感
眼 :眼痛、流涙、結膜炎、眼脂、羞明
呼吸:咽頭炎咽頭
 
 
特徴:治癒まで2-4週かかる、角膜混濁による視力障害起きうる。3類感染症→出席停止
エンテロウイルスの出血性結膜炎→約1週間で治癒
疫学:1-5歳に多いが、成人など幅広い年齢層にある
症状:両側性結膜炎、耳介前部リンパ節腫脹 → その後有痛性の角膜混濁
   自然軽快。視力障害は残存しない
 
 
【迅速検査】
Reference standardがmultiplex PCR /  sen77.9 spe73.6
Reference standardがshell-viral culture /  sen80.0 spe60.9
(文献3より。日本の迅速キットとは違う)
 
クイックナビアデノの添付文書では
咽頭ぬぐい液検査はPCRをReference standardとすると
Sen87.7 Spe96.9 となっている。
 
 
 
 
【参考】
1)Phyllis F, Epidemiology and clinical manifestations of adenovirus infection, UpToDate, last updated Mar 29, 2016.
2)Flor MM, Diagnosis, treatment, and prevention of adenovirus infection, UpToDate, last updated Jun 3, 2015.
3)(抄録のみ) Romero-Gómez MP, Immunochromatographic test for detection of adenovirus from respiratory samples: is it a real solution for pediatric emergency department?,J Virol Methods. 2014 Jan;195:236-9. doi: 10.1016/j.jviromet.2013.09.002. Epub 2013 Oct 3.
4)クイックナビアデノ添付文書

インフルエンザ predictive symptoms and signs of laboratory-confirmed influenza

Yang, Jeng-How et al, Predictive symptoms and signs of laboratory-confirmed influenza, Medicine. 2015 Nov;94(44):e1952.
 
成人のインフルエンザ患者の、問診や迅速検査の診断精度に関して検討したスタディです。
 
P:台湾の2つの都市部で、18歳以上の成人で上気道症状を呈して外来クリニックを訪れた人
(上気道症状:発熱、咳、寒気、頭痛、倦怠感、咽頭痛、鼻汁、鼻閉、筋肉痛の1つ以上)
平均33歳、基礎疾患を持つ人の割合も10%程度
 
E:各症状や問診(統一された質問票)、RIDT(迅速抗原検査)
C:RT-PCR(リアルタイムPCR)and or 培養
O:インフルエンザ診断の精度
 
・Reference standardとしてPCRや培養は適切と思われます。
・ExposureとComparisonは互いに独立して評価されています。
・Exposure、Comparisonともに再現性も問題ないと思われます。
 
Reference standardと問診は全員に実施されています。
迅速検査は実施されていない人もいます(臨床判断でするかしないかを決定した?)

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結果は以下です。

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 発熱、咳と、咽頭痛、くしゃみ、soreness(痛み、苦痛といった意味のようですが、どこの痛みのことなんでしょう?)などの組み合わせが有用なようです。
私個人としてはインフルエンザの人がくしゃみをしてるイメージはあまりないんですが、皆さんどう思われるでしょうか。

咳のNLRが0.1(0.02-0.42)であり、咳がない場合には可能性はかなり下がるようです。

迅速検査(RIDT)も陽性・陰性尤度比ともにそれなりに有用なようですが、前述のとおり全員に実施されているわけではないので、選択バイアスの問題で過大評価されている可能性はあるかもしれません。
 
 

高血圧 A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control

JT wright, et al, A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control,N Engl J Med. 2015; 373:2103-2116

高齢者も含め比較的心血管リスクが高い人に対して、降圧目標をどの程度にすればいいかを検討したスタディです。
 
P 50歳以上でSBP130-180の方のうち、糖尿病・脳梗塞以外の心血管リスクがある人
*糖尿病・脳梗塞以外の心血管リスクとして、以下の1つ以上を満たすことが挙げられています。臨床的または無症状な心臓血管疾患
慢性腎臓病(多発性嚢胞腎以外で、eGFR20-60)
Framingham risk scoreで心血管10年リスクが15%以上
75歳以上
 
E SBP<120を目標とする群(Intensive treatment) 
C SBP<140(130-139)を目標とする群(Standard treatment)
O primary:心筋梗塞、ほかのACS脳梗塞心不全、心血管死の結合アウトカム
  secondary:個々のアウトカム、全死亡、primary+全死亡の結合アウトカム
 
・ランダム割り付けされている。割り付け方法はわかりませんでした。
・Baselineはおおむね同等:平均67.9歳、75歳以上が28.2%
・ITT解析されている
・追跡率89.4%、追跡期間は平均3.26年
(5年間の目標だったが思ったより差が出たため早めに打ち切りとなった)
・マスキングはなし
・サンプルサイズは十分
 
結果は以下です。
 

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Primary outcomeは有意にIntensive treatment群で減少しています。
(計算すると、NNTは62.5でした)
Secondary outcomeで有意差があるのは心不全、心血管死、全死亡、Primary outcomeまたは死亡の4項目です。
 
高齢者であっても、Intensive treatment群のほうが予後を改善するという結論になっています。
 
この論文の適用に当たり注意すべきこととしては、
・副作用としてAKI、低血圧、電解質異常(低Na、低K)が多いこと
・介護を必要とする高齢者は含まれていないこと
・長期間使用での腎機能への影響は不明であること
・糖尿病や脳卒中の既往がある方は含まれていないこと
・Intensive treatment群では降圧薬の使用量が多い(Intensive treatmentは平均3剤、Standard treatment群は平均1.9剤)ため、アドヒアランスの低下が起こりうること
拡張期血圧の目標値に関しては記載がないこと
などが挙げられるでしょうか。
 
JNC8で60歳以上は降圧目標を150/90にするといったことが言われていたので、この論文をどう臨床に応用するかは難しいところかと思います。
SBP120を目標にするのは大変かなと思い、間をとって130/80くらいを目標にしようかな などと考えています。
このStudyの結果を皆さんはどのように適用されるのか、ご意見を是非伺いたいです。
 
 
 
 
 

凍傷 凍瘡 しもやけ まとめ

雪山で遭難し、翌日救出され搬送されてきた方。

32度台の低体温と足趾の凍傷(診察時点でⅠ度)がありました。

凍傷の症例は経験がなく、参考文献1を見ながらなんとか対応。

 地元の皮膚科に紹介状を書いて、フォローをお願いしました。
以下はまとめです。
 
【リスクファクター】
疲労、脱水、低栄養、アルコール中毒、末梢血管疾患、糖尿病、精神疾患
 
【症状】
耳、鼻、顎、指、趾などに起きやすい
冷感、しびれ、動かしにくさ、感覚障害、白~灰色の皮膚、解凍により(非)血性水疱

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(参考文献2より)
 
 
【重症度分類】
①凍傷frostbite
Ⅰ度 紅斑性 発赤、腫脹、凍傷。レトロスペクティブに診断、組織損傷無し
Ⅱ度 水疱性 浮腫、水疱形成(真皮までの障害)、初期は真っ白に見える、皮下は弾力ある
Ⅲ度 壊死性 壊死、潰瘍(皮下組織までの障害)、皮下は弾力あり
Ⅳ度   筋肉、骨までの壊死。皮下は木のように固くなる
 
②しもやけ 凍瘡 chilblain 0度以上で発症する赤紫色の病変
塹壕足(ざんごうそく) trench foot 冷たい水に長時間つかって発症
 
 
【治療】エキスパートオピニオンが多い
・急速解凍rapid rewarming 40度くらいのお湯で数十分加熱 湯温モニター
・局所:患部の挙上安静、水疱痂皮潰瘍処置、切断(4週間以降)
・水疱は吸引する
・NSAIDs トロンボキサンに拮抗、鎮痛
・神経ブロック:硬膜外、交感神経節
・血管拡張:PGE1
・高圧酸素療法
破傷風予防
・禁煙
・重大なアンプタ(複数の指や大腿部など)リスク→tPAやヘパリン
 
 
【参考文献】
1)Philip B, 大滝純司, 他, マイナーエマージェンシー, 第1版, 2009, 医薬品出版株式会社.
2)林寛之, StepBeyondResident2, 羊土社, 2007.
3)Ken Z et al, Frostbite,UpToDate, Accessed on Jan 18, 2016.
 

急性腹症 腹痛 アプローチ まとめ

腹痛は解剖学的アプローチがよく用いられると思います。
症状は罹患臓器を反映します。上腹部痛を起こす臓器は○○と××、逆に胆道系臓器が障害されるとどこの部位に痛みが起きるのか、ということを理解するのが最も理にかなったアプローチなのかな と思い、意識してまとめてみました。
 
 
【罹患部位からのアプローチ】
@特に念頭に置くべき疾患
上腹部痛 上部消化管穿孔、急性膵炎、胆道疾患、急性虫垂炎
下腹部痛 急性虫垂炎、下部消化管穿孔、子宮外妊娠、卵巣嚢腫頚捻転、精巣捻転
全般痛  腸閉塞(絞扼、軸捻転、ヘルニア嵌頓含む)、急性腸管虚血
 
@部位別
  胃腸虫垂 肝胆膵脾臓 心肺 泌尿生殖器 筋骨格皮膚 血液
心窩部
食道、胃、十二指腸、虫垂炎初期、横行結腸
胆道、膵臓
心臓、肺、血管
     
 
右上腹部
胃、十二指腸
肝臓、胆道、膵臓
腎臓
肋骨骨折
 
 
 
左上腹部
食道、胃、十二指腸
心臓、肺
腎臓
肋骨骨折
 
 
臍周囲 胃、十二指腸、小腸、虫垂炎初期 胆道、膵臓 血管      
右下腹部 小腸、回盲部、上行結腸     腎臓、膀胱、生殖器    
左下腹部 小腸、下行結腸、S状結腸     腎臓、膀胱、生殖器    
腹部全体 小腸   血管     あり
不特定領域 腹壁瘢痕ヘルニア、腹膜垂炎       あり  
 
 
@臓器別
①胃腸虫垂
食道:胃食道逆流、食道炎
胃:胃炎、潰瘍
十二指腸:潰瘍
小腸:イレウス+SBO、腸炎、炎症性腸疾患、
   ヘルニア嵌頓(内外鼠径、閉鎖孔、大腿)、過敏性腸症候群、腹膜炎
回盲部:虫垂炎、腸結核
上行結腸:憩室炎、炎症性腸疾患
下行結腸:憩室炎、炎症性腸疾患
S状結腸:捻転
そのほか:腹壁瘢痕ヘルニア、腹膜垂炎
 
②肝胆膵脾臓
肝臓:肝炎、肝膿瘍、肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis )、肝腫瘍、肝静脈閉塞症(BuddChiari)
胆道;胆嚢胆管炎、総胆管結石、胆石症
膵臓:膵炎、膵腫瘍
脾臓:梗塞、破裂、膿瘍、遊走脾
 
③心肺
肺:肺炎、胸膜炎、肺塞栓、横隔膜下膿瘍
血管:腹部大動脈瘤破裂、大動脈解離、腸間膜虚血
 
④泌尿生殖器
腎臓:尿管結石、腎盂腎炎
膀胱:膀胱炎
男性:精巣捻転、精巣上体炎
女性、子宮外妊娠、卵巣腫瘍茎捻転、骨盤内炎症性疾患、子宮内膜症
 
⑤筋骨格皮膚
筋骨格:肋骨骨折、筋肉痛
皮膚;帯状疱疹
 
⑥血液
代謝;糖尿病性ケトアシドーシス、急性間欠性ポルフィリン症、鉛中毒、急性副腎不全
リウマチ:家族性地中海熱
 
@疼痛部位と罹患臓器の位置の乖離
・自発痛の位置と解離
 急性虫垂炎→上腹部痛、胆嚢炎膵炎→背部痛、尿管結石→尿管方向、精巣捻転→下腹部痛 など
 
・罹患部位が想像より広がっている
 左下腹部痛→虫垂炎:長くて先端が左へ、下腹部痛→膵炎:浸出液が骨盤腔まで達する など
 圧痛の最強部中心部を探す
 
・臓器が本来の位置に無い
 内臓逆位、腸回転異常、左側胆嚢、食道裂孔ヘルニア、オペ後
 高齢で右肺手術既往/右横隔神経麻痺など→胆嚢の位置が上へ
 高度な亀背→肋骨弓が骨盤腔に入り込むほど→胆嚢炎が右下腹部、虫垂炎が右上腹部となったりすることも
 
【緊急性からのアプローチ】
①ショックの場合
・出血性(外傷除く)
腹部血管疾患:腹部大動脈瘤破裂、腸骨動脈瘤破裂、腹腔動脈瘤破裂
肝脾疾患:HCC破裂、脾破裂
婦人科疾患:子宮外妊娠、卵巣出血
→エコーでチェック、必要なら穿刺で出血であること確認
 
敗血症
原疾患→汎発性腹膜炎→敗血症:広範な腸壊死や下部消化管穿孔など
原疾患+-限局性腹膜炎→敗血症:急性胆嚢炎胆管炎、虫垂炎など
 
・脱水による
急性膵炎、腸閉塞、重症膵炎、上部消化管穿孔など
 
上記が原因
ショック、呼吸不全、軽度黄疸、低体温、mottling(斑点形成)、意識障害、重度の代謝性アシドーシス
 
③汎発性腹膜炎
・板状硬board like rigidity 
強い自発痛、カチンコチンで腹壁は揺れない、特に上部消化管穿孔
・反跳痛が明らか
特に下部消化管穿孔 腹部全体膨満、ゴム風船を膨らませたような弾力のある硬さ
・明らかに局在
穿孔性の虫垂炎や胆嚢炎など
 
*手術適応にならない例外:急性膵炎、原発性腹膜炎、重症の急性腸炎
 
 
【痛みの性状からのアプローチ】
①七転八倒
通常結石性疾患(尿管結石、胆石など)、ほか臓器虚血
→腹膜への炎症波及がないため動くことによる痛みの増強がない
 
②苦悶様
腹膜刺激があるためじっとしている。上部消化管穿孔、急性膵炎など
 
*痛みがマスクされる状態
麻痺(脊損、脳血管障害)、高齢者、統合失調症、肥満、糖尿病、妊娠
 
*疾患の進行で痛みが和らぐ場合
穿孔:穿孔直前~時が最も痛い?、その後は少し和らぐ
梗塞(SMA閉塞など):虚血は痛いが、壊死に至ると臓器自体の痛みはなくなる
 
 
【随伴症状からのアプローチ】
①悪心嘔吐食欲低下
1.程度や性状
悪心のみ:腸閉塞はやや否定的
水様吐物:腸閉塞らしい
 通常黄茶褐色(便汁様)、十二指腸に近い閉塞だと緑色が強くなる
食物残渣:嘔気や疼痛に伴うもの、胃出口での閉塞
 例外:絞扼性腸閉塞など→痛み強い→初期は食物残渣のこともある
 
2.罹患部位との関連
本管(胃小腸大腸)→悪心強い、口側でさらに強い
虫垂       →悪心あるが長続きしない
側管(胆管胆嚢膵臓)→悪心弱め、強い痛みに伴って吐き気が出る
後天的な側管(憩室など)→ほぼなし
 
②下痢
頻回大量の水様下痢→ほぼ腸炎:腸管粘膜側の病変で、かつ消化管蠕動が低下していない
頻回だが少量の下痢→骨盤内で直腸に接する炎症(虫垂炎、膿瘍、PIDなど):テネスムス(しぶり腹)
そうでない場合→鑑別多数
*血便黒色便を下痢と表現することもあるため注意:特に高齢者
 
③体温
明らかな発熱:感染性疾患から鑑別
平熱:非感染性疾患から鑑別
低体温:敗血症を鑑別
虫垂炎胆嚢炎などCommon diseaseは発熱の有無は重視しない
*悪寒戦慄の有無確認
 
④黄疸
胆管炎を考える。敗血症では軽度黄疸を伴うことあり
 
⑤他部位の疼痛
腰背部:後腹膜病変 大動脈など
右肩甲骨:胆石、胆嚢炎
左肩:脾臓 膵臓 左横隔膜
右肩:甘草 右横隔膜
上半身;右下葉肺炎 膿胸
肩顎歯;心筋梗塞
下肢:血管疾患(解離など)、閉鎖孔ヘルニア
 
 
 
【女性へのアプローチ】
①想起
消化器症状が乏しい、発熱を伴わない腹痛持続痛など
例外:卵巣捻転→嘔吐、PID→発熱
 
②年齢
初潮~20代前半:卵巣頸捻転、子宮外妊娠、PID、卵巣出血
20代後半~;上記+子宮内膜症
子宮筋腫→中年
子宮瘤嚢腫→高齢者
 
③妊娠反応検査
「妊娠可能な年齢の女性の腹痛でレントゲンCTを行うときには、検査することになっています。
あなた自身が妊娠しているかどうかとは関係ありません。
全例で尿検査してほうが正確であることがわかっているからです。」
それでも拒否された場合には、その旨をカルテに記載。
 
④妊娠可能性者への対応
・問題になるケース
放射線被ばくのある検査
薬剤の使用
手術の決定
 
・原則
対応は産科医と協議
妊娠胎児には常に一定の自然リスクがある。
母体の健康=胎児の健康
 
 
【参考文献】
1)窪田忠夫, ブラッシュアップ急性腹症, 第1版, 2014, 中外医学社.
2)松村理司, 診察エッセンシャルズ, 新訂版, 2009, 日経メディカル開発.
3)Scott DC et al, 考える技術 臨床的思考を分析する, 第2版, 2011, 日経BP社.

めまい 眩暈 Dizziness まとめ

めまいはよく来るけどしっかりまとめてなかったと思い、まとめてみます。
救急外来での緊急疾患除外は意識していたけど、それ以降の部分をあまり意識してなかったのが反省点です
 
【アプローチ】
①分類を試みる
1.明らかな回転性めまい→中枢、内耳の鑑別
2.前失神→失神としての鑑別へ→別項
3.はっきりしない場合や平衡障害、浮動性めまい→1,2含めて鑑別
 
②中枢性の除外(失神の鑑別は別項へ)
 
③末梢性の鑑別
 
④そのほかの鑑別
 
 
【分類を試みる】
前失神presyncope:心血管性、起立性、VVR →失神の項目へ
回転性めまいvertigo:内耳、小脳脳幹
平衡障害disequilibrium:視覚、脊髄路、神経筋、前庭、小脳脳幹
浮動感light headedness:パニック、過換気、高血圧、神経筋疾患、疲労、寝不足、低血糖、パーキンソン、低カリウム血症、頸椎症、視力低下、当直明け、失恋など何でもアリ
 
*1つだけに分類できないこともあり、発症状況の確認が大事
*頭痛、しびれ、精神的な錯乱、目の前がかすむ、歩行障害なども「めまい」と表現されることあり
 
 
【中枢性の除外(失神の鑑別は別項へ)
①中枢性の鑑別
小脳や脳幹の梗塞、出血、椎骨脳底動脈還流不全、腫瘍、脳底動脈型片頭痛など
 
②中枢性を疑う状況
突然発症、動脈硬化のリスク、激しい頭痛・頸部痛、神経局在所見、安静にしても持続する眼振を伴うめまい、どちらか一方に傾く
  末梢 中枢
眼振 水平(水平半規管)
水平回旋(前と後半規管:繋がっている)
一方向性
注視抑制あり
疲労あり
懸垂頭位から戻すと反対方向に眼振が出る
垂直性は中枢!
なんでもあり
注視抑制なし(眼振が見やすい)
持続性
歩行 軽度障害
romberg急速相対側へ
高度障害
romberg全方向へ転倒
蝸牛障害あればほぼ内耳 まれ
神経 神経局在所見なし
嘔吐続けば頭痛も
神経局在所見あり
頭痛
まとめ 回転性めまい
+70歳未満
+神経局在所見なし
回転性めまいっぽくない
+70歳以上
 or神経局在所見あり
・頭痛:最初からある場合には中枢っぽい
*中枢性めまい(小脳脳幹)の20-25%は末梢性と同じ!症状はオーバーラップする
 
③神経局在所見
1.脳幹 =花子幸福: 8、7、5、構音障害、複視
・Ⅷ聴神経:難聴、耳鳴り、耳閉塞感
→突然発症の場合は突発性難聴
 再発例などは外リンパ瘻やメニエール、
 緩徐発症なら聴神経腫瘍
 
・Ⅶ顔面神経:おでこは末梢神経麻痺 中枢だとおでこはやられない
・Ⅴ三叉神経:Onion peel分布を意識。口回りの所見に注意 *過換気との鑑別は時に困難 

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構音障害:下位脳神経* 
複視:Ⅲ,Ⅳ,Ⅵ
 
*構音障害の見つけ方
Ⅶ顔面神経:パ、バ、マ 口唇の動き
Ⅹ迷走神経:カ 軟口蓋の動き
Ⅻ舌下神経:サ、タ、ダ、ナ、ラ 舌の動き
パダカ、メダカ、パトカー、モナカ、モナコ、ナメコ、ナマコなど
 
2.小脳 2Ataxia:
・運動失調 指鼻、膝踵、回内回外 
・躯幹失調:歩いてふらつかない →小脳虫部
 
 
【回転性めまいVertigo】
40歳以上の35%は前庭障害あり
①難聴
伴う場合:メニエール病、内耳炎が多い。
ない場合:BPPV、前庭神経炎が多い
 
②繰り返す場合
BPPVやメニエール病が多い
 
片頭痛性めまい
除外診断、片頭痛患者の10%にある
めまいエピソード中2回、以下の1つ以上がみられること;片頭痛、光過敏、音過敏、前兆
 
④BPPVの検査、治療
Epley法(50-95%で効果あり、NNT2 NNH2)
Dix-hallpike試験(Sen79-82, Spe71-75, LR+2.8-3.2, LR-0.3)

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Bの状態で30秒キープ=Dix-hallpikeはここで終了 眼振が出れば陽性 

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Cの状態でも30秒キープ  
Dでもさらに30秒キープ

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E 起き上がって終了
 
 
【そのほかの鑑別】
①起立性低血圧によりめまいを起こす薬剤
α、β遮断薬、ACEI、クロニジン、ジピリダモール、利尿薬、ヒドララジン、メチルドパ、硝酸、レセルピン
向精神薬オピオイドパーキンソン病薬、筋弛緩薬、三環系
PDE阻害薬、抗コリン薬
 
②頭部外傷、むちうち
頭部外傷後のDizziness、むちうち後のVertigoは78-80%にみられるといわれている
 
③平衡障害disequilibrium
ほかの随伴する神経学的所見がなければ、めまい単独の脳梗塞TIAは稀(0.7%/1600人)
視力障害の有無は大事
ほかパーキンソン病、末梢性神経障害、筋骨格系の障害
ベンゾジアゼピンや三環系はリスクになる
 
④浮動性めまいlight headedness
特に慢性的に訴える場合は、精神疾患が多い
うつや不安障害、特にパニック障害アルコール中毒のチェックをする
過換気症候群:呼吸性アルカローシスと浮動性めまいをきたす、他胸痛、しびれ、腹満、心窩部痛など
 
 
【参考文献】
1)林寛之,Dr.林の笑劇的救急問答5(上)/ケアネットDVD(DVD), 2009, ケアネット.
2)Post.RE, Dickerson LM, Dizziness: A Diagnostic Approach, Am Fam Physician, 82:361-368, 2010.
3)上田剛士, ジェネラリストのための内科診断リファレンス, 第1版, 2014, 医学書院.
4)林寛之, StepBeyondResident6, 羊土社, 2010.

咽頭痛 嚥下時痛

健康な30代の男性、主訴は発熱。
昨日から体熱感があり、市販の解熱薬を飲むと少し楽になったという。(体温測定せず)
本日来院時は体温36.6度で解熱薬の使用はなし。
他の症状を聞くと、咽頭痛・嚥下時痛があるが他の上気道症状はないと。
また、子供が数週間前に溶連菌性咽頭炎にかかったという。
診察上、両側扁桃に白苔付着があるが、前頸部リンパ節の圧痛や腫脹はなし。
Centor score2点と考え、迅速検査するも陰性。
ウイルス性の咽頭炎として対症療法を行うこととした。
 
 
迅速検査陰性ってだけで否定していいのかな?と思いまとめてみることとしました。
Centor score2点で溶連菌性咽頭炎の可能性が11-17%、迅速検査のLR-が0.11-0.3というデータを用いると
本症例の溶連菌性咽頭炎の事後確率は直感的には限りなく0%に近づきますね。
ちゃんと計算すると、0.01%~0.06%となりました。
罹患した子供との接触があるので、もう少し可能性を上げてもいいかもしれませんが、溶連菌性咽頭炎はどちらにしても否定できたと考えてよさそうだと思いました。
 
 
【概論】
嚥下時痛→咽頭痛。「咽喉頭」の病変。
嚥下時痛でない→ほかの疾患(例:AMI、解離、くも膜下出血)の除外
*開口障害=咀嚼筋(咬筋、蝶形骨筋)の圧力や炎症、または三叉神経麻痺を示唆
 
咽頭炎の90%はウイルス性
 
 
【溶連菌性扁桃炎】
・modified Centor criteria
38℃以上の発熱
咳がない
扁桃の白苔+発赤
圧痛を伴う前頚部のリンパ節腫脹
3-14歳はプラス1点、
45歳以上はマイナス1点
 
ポイント LR+ 溶連菌の確率 Disposition
-1,0 0.05 1-2.5% 検査不要
1 0.52 5-10% 検査不要
2 0.95 11-17% 迅速検査
3 2.5 28-35% 迅速検査
4 4.9 51-53% 抗菌薬考慮
*3-4点全てで抗菌薬治療すると、overtreatmentが50% undertreatmentが10-20%
 
・迅速検査
感度70-90% 特異度90-100% LR+ 7-∞、LR- 0.11-0.3
(文献5より計算)
 
・他のポイント
年齢がやはり大事=小児の病気。成人であれば、sick contactがあるかどうかが大事
小児の場合、猩紅熱様の皮疹はLR2.0-7.6と有用
*猩紅熱:溶連菌の毒素による発熱・皮疹。イチゴ舌や咽頭炎の所見が見られる

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点状紅斑様、日焼け様の皮疹
(文献3)
前頸部リンパ節:腫脹なくても触れて痛みあれば+ととる
白苔;朝にはなくて夕にあるというケースも
鼻汁がない→1点(の気分)
左右の喉のどちらかが痛い→1点(の気分)
嚥下時痛:食事で改善しない
*ウイルスっぽい咽頭痛:咳嗽時のみ増強、起床時に強い、食事中軽快
 
 
 
・治療
①意義
除菌失敗による再発が15%
症状の短縮:16時間程度。病日3日目の疼痛が減少(NNT6)
90%の症例では治療なしでも1週間以内に症状消失
診断に迷う場合は数日以内に再度診察でOK
 
・合併症の予防
リウマチ熱:NNT4000 現在では稀なため予防効果少ない
中耳炎:NNT29
副鼻腔炎:NNT50
扁桃周囲膿瘍:NNT27
糸球体腎炎や髄膜炎:予防効果なし?
 
②内服
バイシリンG 80万単位1日4回 10日間
サワシリン500mg 1日3回 10日間
ペニシリンアレルギーなら
クラリスロマイシン200mg1日2回 10日間
ジスロマック500mg1日1回 3日間
③点滴
ペニシリンG 100万単位1日4-6回 10日間
 
 
 
【5 killer sore throat】
 
*考慮すべき状況
よだれ、発生困難、こもり声、頸部腫脹、特に嚥下困難(uptodate)
嚥下痛や咳嗽痛がない、咽頭所見が軽い
 
①急性喉頭蓋炎:
咽頭痛の割に咽頭所見が軽いときなど疑う。
後期にはsniffing position(鼻をかぐ姿勢)や唾が飲めないなど
 
②扁桃周囲膿瘍:開口障害、前口蓋弓の前方への突出など
 
咽頭後方=咽後膿瘍
原疾患となり得る外傷、異物や口腔咽喉頭、歯牙の炎症性疾患の治療中や初診時
咽頭痛、発熱といった一般的な炎症症状に加えて、呼吸困難、嚥下困難、開口障害が出現し、
さらに頸部の発赤、腫脹、疼痛、ときに握雪音が出現する場合には
単なる上気道炎ではなく頸部下方の各間隙に感染波及した重症感染症を疑う
 
咽頭前方=喉頭蓋の蜂窩織炎ludwig angina: 
発熱悪寒、倦怠感、項部硬直、嚥下困難、sniffing position
 
咽頭側方=感染性血栓性静脈炎lemierre症候群:
若年者、口腔内感染症の先行、嚥下困難、開口困難
 
 
【その他の疾患】
・亜急性甲状腺炎:
多くは自然軽快、ステロイドの適応も考慮
咽頭痛や嚥下時痛の割に、鼻汁や咳がなく咽頭所見が軽い。
痛みの部位の移動、耳の下への放散痛
 
EBVが最多、青年期~若年成人
発熱咽頭痛、後頸部など頸部リンパ節腫脹、肝脾腫、
毛布のような扁桃白苔、
左前腋下線と肋骨下縁の交点が打診でdull(castells point)=脾腫→嘔気、腹満感
3日以上経っても軽快しない
ペニシリンで全身性紅斑
検査としてはCMV-IgMと以下
  ViralCapsidAntigen(VCA)-IgM VCA-IgG EBNA
既感染 - + +
初感染 + +か- -
初感染の初期 - + -
 
咽頭炎の所見としての咽頭発赤は、特異度は低そう。感度はまあまあ?
喉頭違和感:DDとして突発性@大動脈解離、急性@AMI,狭心症、慢性@悪性腫瘍、GERD、後鼻漏
→器質的疾患除外後、半夏厚朴湯が効くかも
 
 
 
【参考文献】
1)岸田直樹, 誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた, 第1版, 2012, 医学書院.
2)岩田健太郎, 宮入烈, 抗菌薬の考え方、使い方 ver.3, 第3版, 2012, 中外医学社.
4)上田剛士, ジェネラリストのための内科診断リファレンス, 第1版, 2014, 医学書院.
5)Anthony WC et al, Evaluation of acute pharyngitis in adults, UpToDate, accessed 2015/11/11.