家庭医療専門医の勉強記録

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【パイナップル巨人軍】大きな構図からはみ出るもの/想像と、わかる/ベイスボゥルに生きる



昨日のゆる言語学ラジオで取り上げられていた本。
面白そうだしKindleで買えたので、さっそく読んでみた。




 

ちょっと走れば息も絶えだえ。平均年齢75歳、ハワイ日系一世の野球チーム、パイナップル巨人軍。対戦成績361敗2分0勝という空前絶後の最弱チームだ。ひょんなことから彼らと対戦するハメに陥ったのが、東京から撮影にきたロケ部隊、その名もマヒマヒ・タイガース。貧乏症のプロデューサー、日和見ディレクターにオカマのヘア・メイクと、こちらも史上空前の軟弱チーム。パイナップル畑の撮影許可を賭けて、マウイ島に火花を散らす老若男女と犬一匹、いま世紀の一戦の幕が開く!
(作品紹介より)


作品紹介からわかる通り、全体的にはくだらない内容だけど、さらっと読めて面白かった。


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ところどころ、印象的な場面があったので引用。

大きな構図からはみ出るもの

「日系移民の人達ってのは、それはもう大変な苦労だったわけね。労働はきつい。給料は安い。で、ほら、日本とは気候も何もかも違うしでね。それでも、一九四一年の一二月までは、まだよかったらしい」     
「一九四一年一二月っていうと?」     
真珠湾攻撃」     
「ああそうか……故郷の日本とアメリカが戦争はじめたわけか……」     
「しかも、すぐ近くの真珠湾に奇襲でしょう。それで死んだアメリカ人やハワイアンもずいぶんいたし。日本人は危ない。何をするかわからない。そんなふうに、日系移民の人達も見られたらしいよ」
(中略)
「そうそう。アメリカへの忠誠を見せるために、軍隊に志願したわけ
Kindle位置No1177-1187)


本書にも出てくるが、442部隊という部隊があった。(恥ずかしながら知らなかったが)
殆どが日系アメリカ人による部隊で、第二次世界大戦中にヨーロッパに赴き戦ったと。


戦争というと国対国の大きな構図でどうしても考えてしまうけど、その構図に単純に当てはめることができないような事象も様々に存在するということを改めて知った。


 

想像と、わかる

「わかる、なんていったら……やっぱり 噓 になるよ」     
雨粒は、あい変わらず光りながら降ってくる。茶色い犬が一匹、雨に濡れてグラウンドを歩いている。おれはぽつりと、     
「生まれたときから、乾いたベッドがあったよ。飢えたことなんか、もちろんない。パイナップルっていえば、食後のデザートだった。だから……なんていうかな……じいさん達の苦労を、想像してみることはできる。けど、それは、わかるってこととはきっと違うんだな……
Kindle位置No1645)

日系移民一世の老人たちは貧困の中、パイナップル畑で育てたパイナップルしか食べられず生きてきた。その苦労を知ったディレクターのセリフ。

仕事柄、他者の辛さや苦労を聞く場面が多い。
わかる、という言葉の傲慢さには自覚的でありたいと思う。


ベイスボゥルに生きる

「そりゃ、わしら、パイナップル畑で汗水たらして働いたの。四四二で、必死に戦ったの。けど、それは、こんな日のためよの」     
「こんな日?」     
「イェッ。こんなふうに楽しくベイスボゥルやる日のためよのっ」     
ひとこと、ひとこと、スルメか何かを 嚙 むようにじいさんは話す。     
「畑つくれば、暮らしが楽になりよる。そう思って一生懸命働いたの。ここで 頑張れば、日系人、馬鹿にされなくなる。そう思って戦争いったの。それもこれも、平和な暮らしのためよの。ベイスボゥル、好きなだけできる平和な暮らしのためよの……」
Kindle位置No1666)


老人たちのベイスボゥルは、僕にとってはなんだろうか。
家族と過ごす時間、読書、ランニング、ピアノ、テニス観戦・・・。